研究期間全体を通じて明らかになったことは、戦前ハワイに移住経験のある日本人の一部が日本帝国統治下の南洋や台湾において、コーヒー産業の確立・発展に重要な役割を担ったことである。さらに、研究を進めるなかで、他の亜熱帯農作物(砂糖、パイナップルなど)の栽培技術も、日本人を通じてハワイから台湾に伝播したことがわかった。ハワイ(米国植民地)-台湾(日本植民地)間の人・モノ・知の「帝国間移動」は、帝国史研究や日本人移民史研究においてあまり注目されてこなかった。今回、帝国間ネットワークの生成過程を実証的に明らかにしたことで、20世紀前半の環太平洋地域における移動の複雑性・多方向性の一部を提示できたことが本研究の意義である。 さらに、平成26年度は最終年度であることから、国際学会・研究会での成果発表を行った。具体的には、2014年9月に英国・オックスフォードで行われた3rd Global Conference: Making Sense of Foodにて、"Coffee Production in Colonial Taiwan" (査読あり)を発表した。また、2015年3月には、国際シンポジウムTranspacific Convergence(米国・南カリフォルニア大学)にて、"Japanese Diasporic Network beyond/across the Imperial Borders"(招待)の発表を行った。ヨーロッパ、アメリカでの発表により、今後、本研究を環太平洋史と国際移動研究の見地から発展させていく可能性が見いだせた。 しかし、台湾でのコーヒー産業史に関する史料を見つけ出すのにかなりの時間を要したため、本研究の目的の一つであったコーヒー栽培と植民地主義の関連性に関する調査は十分に行えなかった。これに関しては、今後の課題として引き続き研究を続ける予定である。
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