研究課題/領域番号 |
24720290
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
蝦名 裕一 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (70585869)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 慶長奥州地震津波 / 日本近世史 / 歴史災害研究 / 盛岡藩政史 / 仙台藩政史 |
研究概要 |
本年度は、慶長16年(1611)に発生した慶長奥州地震津波について、岩手県三陸沿岸地域のフィールドワークと、歴史資料の所在確認や情報の収集を実施した。また基礎となるスペイン語史料の収集・翻刻や、古地形復元のための絵図資料の撮影を実施した。 歴史資料の収集にあたっては、岩手県立図書館や国立国会図書館に所蔵されている記録類の原本を調査し、史料撮影をおこなった。また、スペイン語史料の調査にあたっては、留学生の協力を得て、慶長奥州地震津波を研究する上で最重要となる、マドリード国立図書館所蔵の「ビスカイノ報告書」の情報を得ることができたとともに、部分的に翻刻を実施することができた。 古地形の復元にむけた絵図資料の調査では、岩手県立図書館や宮城県図書館、宮城県公文書館に所蔵されている江戸時代に作成された古絵図や、各地の明治期の地籍図について、学生達の協力を得ながら撮影を実施した。また、仙台市博物館が所蔵している仙台藩国絵図について、カラーマイクロフィルムの複製をおこなった。 フィールドワークでは、岩手県宮古市を中心として、岩手県沿岸部の三陸地方を集中的に調査した。宮古市では、慶長奥州地震津波に関する記録の残る常安寺において、慶長奥州地震津波および宮古市の成り立ちに関わる古文書を閲覧することができた。また、宮古市周辺に残る地域伝承や、古地形の状況を確認することができた。 このほか、平成24年9月14日から16日にかけて横浜開港資料館において開催された第29回歴史地震研究会に参加し、歴史地震研究に関する最新の研究動向を知ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、慶長16年(1611)に発生した慶長奥州地震津波に関する基礎的な記録や、歴史地形の復元のための絵図史料を撮影し、この地震津波を研究する上での基礎的な史料を収集することができた。 マドリード国立図書館所蔵の「ビスカイノ報告」は、慶長奥州地震津波の同時代記録であり、この地震津波を研究する上で最重要となる史料である。従来の研究では戦前の翻訳のみが用いられてきたが、文章の難解さや誤読の可能性の問題が指摘されていた。今年度、この「ビスカイノ報告」について、原文の情報を入手し、一部について解読を実施したことにより、今後慶長奥州地震津波の研究をより深化させることが可能となった。 フィールドワークでは、宮古市沢田常安寺を訪問し、同寺に所蔵されている「常安寺口上書」を閲覧・撮影することができた。この史料は、これまで『新修日本地震史料』などに掲載されていない史料であり、慶長奥州地震津波の分析において、新たな展開が期待できる。 岩手県立図書館・宮城県図書館・宮城県公文書館に所蔵されている絵図資料の分析からは、近代の護岸工事がおこなわれる以前の歴史的地形を知る上での手がかりとなる情報を多数得ることができた。とりわけ、明治期の宮古市域の地籍図からは、閉伊川の流路および河口の変化や、かつての集落・寺院の位置や地名などの情報を得ることができた。 岩手県図書館では「大槌古今代伝記」や「大槌古館城内記」といった現・岩手県大槌町における慶長奥州地震津波発生前後の状況について記した史料の情報を得ることができた。この史料には、慶長奥州地震津波の後、盛岡藩主・南部利直が同地を訪れ、大槌町の再建を計画し、大槌町が形成されていく過程が記述されている。慶長奥州地震津波の被災地が復興していく過程を知る上で重要な位置づけとなる史料であり、今後の分析に活用したい。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前年度に引き続き、岩手県・宮城県の沿岸部の歴史資料の中の津波記録を収集するとともに、前年度には着手していなかった宮城県南部から福島県沿岸部の歴史資料や古地図の調査を実施する予定である。さらに、前年度までに収集した史料の分析を進めるとともに、古地図のトレース作業による歴史地形の復元作業を実施する。 歴史資料の調査については、前年度には充分に調査できなかった宮城県・福島県沿岸地域に残る歴史資料の収集や、伝承などの調査分析をおこなうことにする。特に宮城県の沿岸地域は、仙台藩士・川村孫兵衛が河川改修や塩田開発事業を展開した地域である。また、福島県沿岸部においては、「ビスカイノ報告」の記述にある相馬市周辺の歴史資料に重点を置くことにしたい。併せて、岩手県沿岸部三陸地方のフィールドワークも引き続き実施する。 歴史地形の復元については、前年度に収集した各地の古絵図史料のデータを整理分析し、デジタル画像によるトレース作業を実施する。このデータをもとに、慶長奥州地震津波発生時の歴史地形を復元し、3Dグラフィック等で可視化する。こうして復元した歴史地形と歴史資料を比較検証することで、慶長奥州地震津波の実相について解明していく。 また、申請者が所属している災害科学国際研究所災害リスク研究部門と連携した津波堆積物調査や津波痕跡調査を連携した研究を展開し、文系・理系分野融合型の研究によって慶長奥州地震津波の実相を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、前年度に引き続き岩手県立図書館やもりおか歴史文化館に所蔵されている盛岡藩関係史料や、仙台市博物館や宮城県図書館に所蔵されている仙台藩関係史料の調査を継続して実施する。また、岩手県・宮城県・福島県の慶長奥州地震津波の記録・伝承が残る地域のフィールドワークを実施し、歴史情報の収集および地形や東日本大震災における津波被害の様相について調査する。なお、フィールドワークなどで確認された歴史資料群については、デジタルカメラによって情報を記録する。また、被災地のフィールドワークの際に、未整理の古文書群や東日本大震災で被災した歴史資料が確認された場合は、適宜これに対する保全措置を実施する。 古絵図にもとづく歴史地形の再現については、前年度に引き続き盛岡藩や仙台藩、相馬藩の国絵図や村絵図のデジタル一眼レフカメラによる高解像度撮影作業を実施する。さらに、これまで収集した古絵図の画像データを、ペンタッチタブレットを使用してデジタル画面上でトレース作業を実施する。さらにトレースしたデータをもとに、3Dグラフィックソフトによって地形を再現する。これらの作業については、専門的な技術をもった業者への委託も想定している。
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