研究課題/領域番号 |
24720291
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川本 慎自 東京大学, 史料編纂所, 助教 (30323661)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 日本中世史 / 禅宗史 / 農業史 / 禅籍 / 史料調査 / 足利学校 |
研究実績の概要 |
本研究は、中世禅宗寺院領の展開の背景の一つとして、荘園における生産活動、とくに農業についての知識を禅僧がいかに共有・蓄積していたかを明らかにしようとするものである。具体的には、禅宗寺院内で行われた漢籍・禅籍の講義に着目し、その講義記録である「抄物」を史料として活用して典籍受容の様相を広く追うことによって、禅僧の知識形成の過程を考察するものである。 本年度は、昨年度までに行った調査で得られた知見を踏まえて、京都・中国・九州・北陸・関東地方の寺院・機関の所蔵する史料について、抄物・禅籍を中心に、関連史料の調査(閲覧・目録作成・デジタル撮影)を行った。これらの調査のうち数件は他の科研等の研究グループとの合同で行い、農書に隣接する典籍である医書・本草書の調査も行っている。また、禅宗寺院に留まらず、真言・日蓮宗寺院などにおける知識伝達関係史料の調査も行った。なお、撮影史料のうち所蔵者の承諾が得られたものについては、順次、史料編纂所図書室において写真帳もしくはボーンデジタルの形で閲覧公開に供している。 本年度の研究においては、とくに足利学校とその周辺で行われた知識伝達に着目し、中世後期に常総地域で活動した禅僧大蟲宗岑の語録『大蟲岑和尚語集』を分析することで、足利学校で学んだ禅僧・連歌師・医師らのネットワークが存在していたことを明らかにした。また、禅宗寺院を中心とした室町期の寺院の中央・地方の関係について分析し、当該期の本末関係の再構築と幕府の寺領政策が密接に関わっていることを考察した。これらは農業知識の伝達の場となるものであると位置づけられる。 一般向けの成果公開としては、東京大学史料編纂所編『日本史の森をゆく』(中公新書)に抄物からみた農業知識についての小文を執筆したほか、足利学校や禅宗寺院についての講演を行い、また東国の禅宗寺院に関する展覧会への協力も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、禅籍・抄物史料の調査を行うことで中世禅僧の農業知識の伝達の様相を明らかにすることにあるが、こうした調査は本年度もおおむね順調に進んでいる。また、調査の過程で新たな史料の所在が判明し、農業や土木の基礎となる数学知識に関わる史料についての調査にも取りかかっており、研究は一定の進展を得ていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究に引き続き、禅籍・抄物史料を中心とする調査を行う。内容としては、農業知識に関わるものが中心ではあるが、農書に隣接する医書・本草書、農業土木に関連する知識である算書など、広く知識伝達に関わる典籍も含めた調査を行う。なお、これらの調査にあたっては、対象となる史料に応じて、専門分野の研究者の同行・助言を求める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に予定していた史料調査のうち、調査先との日程調査の都合上、やむを得ず次年度に行うこととなったものが生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額の多くは旅費であり、26年度に予定していた調査を次年度に行うことで使用する計画である。なお、27年度に予定していた史料調査については、必要に応じて専門分野の研究者の同行・協力を得て予定通り実施する計画であり、27年度分として請求する助成金の使用計画に変更はない。
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