本年度における最大の研究実績は、『戦前日本の政党内閣と官僚制』(東京大学出版会、2014年)を刊行したことである。同書の第6章(「政党内閣と技術官僚」)で、これまでの政党内閣期における土木系技術官僚の政治的動向に関する研究をまとめ、彼らが、政党内閣に①土木系技術官僚の任用拡大、②土木事業の拡大、の2点を期待していたものの、結局はその期待は裏切られ、政党内閣に対する反発を強めていく様相を明らかにすることができた。 本年度はさらに、政党内閣崩壊後、土木系技術官僚が政治的な動きを強めていく過程を分析した。その結果、時局匡救事業の展開や土木会議の設置などによっては、彼らの事業拡大要求は満たされなかったことが明らかになった。そこで、当初の予定を変更して、彼らが土木事業拡大の世論を喚起しようとし、その一環として、地域社会の有力者を組織化していったことを、利根川治水協会の成立・展開過程を通じて明らかにした。 具体的には、土木学会附属図書館所蔵の真田秀吉旧蔵資料や、茨城県立歴史館所蔵の須田家文書に残された利根川治水協会に関する史料を用いながら、同協会が治水予算の拡大を求めた土木系技術官僚の主導によって設立されたこと、同協会の活動を通じて、土木系技術官僚と利根川沿岸部の有力者との関係が強化されていったことを明らかにすることができた。その成果の一部は、第33回土木史研究発表会(2014年6月22・23日)で報告することになっている。
|