本研究では、明治維新による近世身分制の解体の特質を探る目的から、永青文庫細川家資料(財団法人永青文庫所有、熊本大学附属図書館寄託)の藩政史料を主な分析対象として、19世紀熊本藩領における「金納郷士」と村・地域社会との関係、および金納郷士制度の解体過程を具体的に解明しようとした。その結果、百姓たちが藩への献金などで郷士の身分を獲得しても、彼らは村の構成員として村社会や小前層の動向に規定される存在であったことがわかった。さらに、幕末期における「金納郷士」の急増が村・地域社会の秩序に動揺をもたらしたこと、こうした秩序の混乱に対応して維新期の身分制解体策が行われたことも明らかになった。
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