研究課題
2012年度に引き続き、平安時代地方支配末端組織データベース(雑任層データベース)の作成を行い、データベース完成に向けて順調なペースで作業を進めることができた。従来は、平安時代の地方支配について、郡司、雑任、刀祢などを階層的にも、地位的にも截然と区分して個々に検討する方法がとられてきたが、本研究はそうした固定観念を払拭して、郡司層以下の「富豪層」が臨機に公務に従事している様相をフレキシブルに把握することを目指しており、その意味でも、本データベースの構築は在地支配層の歴史的な存在形態を分析する上で重要な作業になると考えられる。なお、本年度はデータベースの作成と並行して、在地における刑事事件・騒擾行為の処理法と刑罰の問題に関する史料収集を行った。これは在地支配層の動向を歴史的に位置づける一つのケーススタディとしての意味をもつ。以上の基礎的な研究作業に加えて、2013年度は1周防国の知行国支配に関する問題の研究報告、2西山地蔵院文書の考察、3平安後期の荘園の紹介、4平安時代地方支配にかかわる論著の書評を行った。1は鎌倉期の東大寺大勧進栄西の周防国支配について分析した報告であるが、研究の前提として平安末期の情勢もあわせて考究しており、当該期の国衙領・荘園・杣の様子の一端を明らかにすることができた。2は室町期に写された平安時代の古文書の写をもとに伊勢国朝明郡の条里配列を明らかにし、平安期の当該地域の在地の状況について言及した。3は伊賀国黒田荘で平安期に起きた事件を取り上げ、当該期の地方支配の特徴について、現地に即して説明したもの。4は平安後期の受領支配と所当官物について論じた著書の書評を行ったものである。その成果は2014年度に公刊される予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主要な課題である平安時代地方支配末端組織データベース(雑任層データベース)の作成は、昨年度以上のペースで順調に作業を進めることができた。特に古文書史料については8割方の作業を終えることができたので、研究最終年度である2014年度には前期の間にデータベースを完成させることが確実に視野に入ってきた。また、データベース構築作業とあわせて、作業分のデータを利用するかたちで、いくつかの事例について考察を行い、それらの成果を論稿・研究報告として発表することができた。また、考察途中の事例についても、引き続き分析を深めていくための基礎作業(史料収集と先行研究の整理)を整えた。以上の点より、ほぼ順調に研究が進展していると判断する。
2014年度は、本研究の主要な課題である平安時代地方支配末端組織データベース(雑任層データベース)の早期完成を目指す。古文書史料については既に8割方の作業を終えたのでその作業を完結させ、さらに引き続いて古文書以外の史料である金石文・聖教・記録物の調査を進めていき、データベースを完成させる。データベースの作成・完成とあわせて、それを用いた分析・考察を行う。考察の主要なテーマとしては、①地方における刑事事件・騒擾行為の処理法と刑罰の問題を在地支配層の役割や地方支配の問題と絡めて分析すること、②在地の文筆層の存在形態と推移を歴史的に跡づけながら、荘園制形成における「公文職」の生成について見通しをえること、を設定する。①②のいずれも本研究の課題にとって重要なケースステディとなるものである。
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三重県史研究
巻: 29 ページ: 80-90