最終年度は、(1)平安時代雑任データベースの作成、(2)地方支配にかかわる古文書・古記録史料の整理・集成、(3)上記のデータベースや史料をフル活用した平安時代地方行政組織にかかわる分析・考察の成果の公表を積極的に行った。 (1)は本研究の開始当初から継続して行ってきた基礎作業であり、今年度これを完成させることができた。これらのデータは、平安時代の地方支配末端組織の変化や動向を分析するための基本資料となるものである。 (2)では、古代の律令制的な地方行政制度から中世の荘園制的な支配制度への移行過程を明確にするため、伊賀国の東大寺領をモデルケースとして、それに関連する文献史料を網羅的に収集し、編年順に整理した。伊賀国の東大寺領は多くの関係史料が残り、長期的なスパンで地方支配組織の変遷を跡づけることができる希有な事例である。平安時代の郡司・刀祢の特徴や、徴税制度の実態について分析を進めた。 (3)上記の(1)(2)における基礎作業を踏まえたうえで、研究論文の作成や研究報告を行った。一点目は平安時代の徴税・財政構造に関する研究書の書評で、当該分野の今後の課題について指摘した。二点目は東大寺造営事業を扱った論考で、平安末期~鎌倉初期の知行国主・国衙支配の一側面を考察した。三点目は十~十一世紀の在地支配に関する研究報告で、官物・公事の徴税制度について新たな論点を提示し、さらに荘園制支配への架け橋となる公文層に注目してその存在形態を明らかにした。四点目は鎌倉末期の周防国の国衙領の再編過程を分析した研究報告で、三点目に指摘した公文層のその後の歴史的展開を把握することを意図したものである。ちなみに三点目・四点目の研究報告は、論考として公表する予定である。五点目は古代の畿内における国司・郡司といった地方行政官人の性格とその変容に関する考察で、現在論考を準備中である。
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