研究課題/領域番号 |
24720309
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
竹内 亮 立命館大学, 経営学部, 非常勤講師 (10403320)
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キーワード | 出土文字資料 / 官営工房 / 官衙 / 長門国 / 木簡 / 文字瓦 / 鋳銭司 / 長登銅山 |
研究概要 |
本研究は、古代日本の官営銭貨鋳造組織である鋳銭司で行われた銭貨鋳造の実態を分析し、古代日本における官営工房の運営システムを明らかにするものである。本年度は第2年度となるが、主たる調査対象として計画していた長門鋳銭司跡出土木簡は、保存状態の改善を目指して調査機関の下関市教育委員会および関係機関により科学的処理中であり、本年度中には木簡釈読調査を実施することができなかった。そこで本年度は、長門鋳銭司跡出土木簡の分析にあたって比較検討対象となる以下の資料についての調査を主として実施した。 1.長登銅山跡出土木簡の調査:本研究開始に先立つ予備的調査の結果、本研究において主たる調査分析対象としている長門鋳銭司跡出土木簡は、奈良時代の官営銅山遺跡であり長門鋳銭司にも官銭鋳造の原料銅を供出したと考えられている長登銅山跡から出土した木簡と内容・様式面で深い関連性を有していることが分かっている。そこで本年度も、初年度に続いて長登銅山跡出土木簡の所蔵機関である美祢市長登銅山文化交流館に出張を行い、木簡の実物観察および釈文の検討を行い、長門鋳銭司跡出土木簡との比較にあたって留意されるいくつかの特徴について検討し、今後の調査へ向けての基礎的情報を得た。 2.古代出土文字資料の調査研究:本研究では長門鋳銭司跡を主たる分析対象としつつ、最終的には古代官営工房全般を通じた運営システムの解明を目指しており、古代における様々な造営組織についての実態的検討を行うこととしている。本年度は、古代長門国での産銅・銭鋳事業において、主に物資輸送システムを解明するための重要な鍵となるであろう「秦益人刻書石錘」の実物調査を山口市小郡文化資料館に出張して実施した。また、明治大学古代学研究所・名古屋市立博物館等で実施された学術シンポジウム等に参加し、聴講・討論を通じて古代出土文字資料に関する全般的な理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第2年度目となる本年度は、長門鋳銭司跡出土木簡の調査所蔵機関である下関市教育委員会の協力の下、木質遺物の総点検・光学機器を用いた墨書の有無の確認・木簡に特有な加工痕の有無の確認といった基礎的整理作業を実施する予定であった。しかし現在同委員会では、木簡の保存状態改善を目的として関係機関と共同で科学的処理を行っており、本年度は木簡の実物調査については見送ることとした。本研究における研究目的達成のためには調査機関との円滑な関係の下で木簡の実物調査が可能であることが前提となるので、現在までの研究達成度はやや遅れていると評価しなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は長門鋳銭司跡出土木簡の実物調査については見送ったため、次年度はあらためて調査所蔵機関である下関市教育委員会と協議を行い、木簡の科学的処理作業の進捗を見極めたうえで再度研究協力を申し入れる。その上で同委員会との協力により、木簡の基礎的整理作業を実施したい。具体的には、当該発掘調査によって出土した全ての木質遺物を総点検し、光学機器を用いた墨書の有無の確認、および木簡に特有な加工痕の有無を確認し、木簡の総点数を確定する。その過程で、出土した木質遺物の総量に占める木簡の割合を概算し、鋳銭司において木簡がどの程度の頻度で利用されていたかを推定する。また、破片化した木簡の原形復元につとめ、史料として有効に活用できる木簡の点数を少しでも増やしつつ、その作業を通じて木簡の形状に関する傾向を把握することによって、鋳銭司における木簡の用途についての大まかな見通しを得る。これらと並行して、木簡と共伴出土した銭貨や鋳銅関係遺物などを観察し、また発掘調査時の遺構図も検討しながら、木簡がどのような環境の下で使用され廃棄されたのかについても考察する。以上のような長門鋳銭司についての直接的調査と並行して、他の官営工房遺跡や官衙・寺院の造営組織との比較研究も併せて進め、古代における生産・造営システムに通底する特質を明らかにする。
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