研究課題/領域番号 |
24720309
|
研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
竹内 亮 奈良大学, 文学研究科, 研究員 (10403320)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 出土文字資料 / 官営工房 / 官衙 / 鋳銭司 / 長登銅山 / 寺院 / 木簡 / 文字瓦 |
研究実績の概要 |
本研究は、古代日本の官営銭貨鋳造組織である鋳銭司で行われた銭貨鋳造の実態を分析し、古代日本における官営工房の運営システムを明らかにするものである。本年度は第3年度となるが、主たる調査対象として計画していた長門鋳銭司跡出土木簡は、保存状態の改善を目指して調査機関の下関市教育委員会および関係機関により引き続き科学的処理中であり、本年度中には木簡釈読調査を実施することができなかった。そこで本年度は、長門鋳銭司跡出土木簡の分析にあたって比較検討対象となる以下の調査を主として実施した。 1.豊前国における古代産銅の調査:古代の長門国における産銅との比較検討のため、やはり古代の主要産銅地であった豊前国における古代官衙・寺院・集落の分布状況を調査した。具体的には、豊前国域に相当する福岡県行橋市・みやこ町、大分県中津市・宇佐市一帯に所在する古代遺跡の実地踏査を行った。その結果、この地域には特に古代寺院が稠密に分布していることが把握でき、初期の産銅を担った主要な集団と考えられる渡来系氏族の居住実態についての知見が得られた。 2.古代造営組織の調査研究:本研究では長門鋳銭司跡出土木簡を主たる分析対象として鋳銭司の官司・工房運営を復元することを目指すが、同時に古代官営工房全般を通じた運営システムの解明も主要課題として位置づけている。そのため、古代における様々な造営組織についての実態的検討を進めている。本年度は、7世紀後半の国家的複合工房である飛鳥池遺跡(南地区)に関わる造営事業について、同遺跡出土木簡の分析に基づいて検討を行った。その結果、天武天皇十年前後に離宮・ミコ宮・キサキ宮といった国家的造営事業が集中して行われ、飛鳥池遺跡の工房がそのための資材を大量に供給していた実態を明らかにした。この研究成果は、「石川宮考」と題する口頭報告および論文(投稿済、2015年度刊行確定)として公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第3年度目となる本年度は、長門鋳銭司跡出土木簡の調査所蔵機関である下関市教育委員会の協力の下、木質遺物の総点検・光学機器を用いた墨書の有無の確認・木簡に特有な加工痕の有無の確認といった基礎的整理作業を実施する予定であった。しかし現在同委員会では、木簡の保存状態改善を目的として関係機関と共同で科学的処理を行っており、本年度は木簡の実物調査については見送ることとした。本研究における研究目的達成のためには調査機関との円滑な関係の下で木簡の実物調査が可能であることが前提となるので、現在までの研究達成度はやや遅れていると評価しなければならない。なお、長門鋳銭司以外の古代産銅および官営工房の研究については、着実に進捗している。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は長門鋳銭司跡出土木簡の実物調査については見送ったため、次年度はあらためて調査所蔵機関である下関市教育委員会と協議を行い、木簡の科学的処理作業の進捗を見極めた上で再度研究協力を申し入れる。その上で同委員会との協力により、木簡の基礎的整理作業を実施したい。具体的には、当該発掘調査によって出土した木質遺物を総点検し、光学機器を用いた墨書の有無の確認、および木簡に特有な加工痕の有無を確認し、木簡の総点数を推定する。また、破片化した木簡の原形復元につとめ、史料として有効に活用できる木簡の点数を少しでも増やしつつ、その作業を通じて木簡の形状に関する傾向を把握することによって、鋳銭司における木簡の用途についての大まかな見通しを得る。これらと並行して、木簡と共伴出土した銭貨や鋳銅関係遺物などを観察し、また発掘調査時の遺構図も検討しながら、木簡がどのような環境の下で使用され廃棄されたのかについても考察する。以上のような長門鋳銭司についての直接的調査と並行して、他の官営工房遺跡や産銅関係遺跡との比較研究も併せて進め、古代における生産・造営システムに通底する特質を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、長門鋳銭司跡出土木簡の調査所蔵機関である下関市教育委員会の協力の下、木質遺物の総点検・光学機器を用いた墨書の有無の確認・木簡に特有な加工痕の有無の確認といった基礎的整理作業を実施する予定であった。しかし現在同委員会では、木簡の保存状態改善を目的として関係機関と共同で科学的処理を行っており、本年度は木簡の実物調査については見送ることとした。したがって、そのために計上していた下関市への調査旅費・研究補助者への謝金等の人件費などが未使用となり、次年度使用額が生じることとなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
本研究の目的達成のために最も重要な作業は、長門鋳銭司跡木簡群を史料として活用するための基盤となり得る信頼性の高い釈文の作成である。その前提として、木簡所蔵機関である下関市教育委員会への出張調査を行い、研究補助者をアルバイトとして雇用しながら木簡の基礎的整理作業と赤外線デジタルカメラを用いた木簡の釈読を行う。以上のような木簡の釈読作業と並行して、木簡以外の長門鋳銭司跡出土遺物や遺構の検討、既存の文献史料を用いた鋳銭司や他の古代官営工房に関する考察、長登銅山をはじめとする他の古代官営工房と鋳銭司との比較検討なども併せて行う。
|