研究課題/領域番号 |
24720312
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
榎本 渉 国際日本文化研究センター, 研究部, 准教授 (60361630)
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キーワード | 仏教 / 入宋僧 / 文化交流 / 禅宗 / 海外調査(中国) / 資料調査 / 資料撮影 / 日中関係 |
研究概要 |
1)日文研所蔵の近世写本『空華老師日用工夫略集』の全文翻刻とデータベース公開の準備を行なった(2014年度中に日文研webサイト上で公開予定)。本書はデータベース化が進行中もしくは予定されている叢書には未収録であり、そのデータベース化は重要な意味を持つ。また本書の書誌研究の一環として、京都府立総合資料館・東京大学・国立公文書館などに所蔵する他の写本の調査も行なった。その成果は2014年刊行予定『日記の総合的研究(仮題)』(倉本一宏編、思文閣出版)所収の拙稿「日記と僧伝の間」にも反映される。なお調査に当たりノートパソコンおよびその附属品などを購入した。 3)研究代表者は前年度に佐賀県の調査を行ない、万寿寺を訪れたが、その際に近世初頭の伝記や中世の回向文集を含む冊子の伝来を確認した。そこで住職のご快諾を得た上で、東京大学史料編纂所の職員とともに資料撮影を行なった(写真は史料編纂所で公開予定)。当寺は入宋僧を開山とし、織豊期の住職は鍋島氏の朝鮮出兵に随行し記録を残すなど、中世国際交流と関わりの深い寺院で、その実態を明らかにする糸口を突き止めたことは重要な成果である。なお本調査と合わせ、長崎県歴史文化博物館での日朝関係史に関わる資料調査、佐賀県立図書館での万寿寺関係資料の調査、日宋貿易との関わりがある肥前神埼荘の跡地踏査も行なった。 4)中国のトルファン・敦煌で現地研究機関の協力を得て、文書・石窟碑文の実見や史跡の踏査を行なった。当地は日本仏教の母体となった中国仏教の成立に関わる地で、その様相を明らかにすることは、日中仏教交流における文化導入のあり方の特質を浮き彫りにする上で有用である。 5)和歌山県由良・熊野・那智など、鎌倉時代の入宋僧無本覚心と縁のある寺院を踏査した。覚心を派祖とする臨済宗法灯派は中世の和歌山で大きな影響力を持った宗派で、宋風教団の発展を考える上で重要な素材である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究として予定していたものとしては、①佐賀県万寿寺所蔵史料の調査・撮影、②渤海海峡・中央アジア調査、③福岡県興国寺・大分県羅漢寺の調査、④データベース作成がある。 この中で①は当初の予定通り遂行した。②については渤海海峡調査は他経費で行なったが、中央アジア調査として想定していた中印仏教交流路の踏査については予定通り遂行した。③について、興国寺調査は未遂行。羅漢寺調査は予算の都合から他経費を用い行なったが、その結果同寺の境内が元代中国の山居隠逸の禅の再現を志していたという見通しを持ち、その旨を「白幡洋三郎編『『作庭記』と日本の庭園』(思文閣出版、2014年3月刊)所収の拙稿「南北朝時代の臨済宗幻住派・金剛幢下における境内空間」に記した。羅漢寺は本年度の調査で重視した臨済宗法灯派の関わる寺院であり、法灯派研究の成果の一つでもある。④について、当初予定していた作業はすべて完了したが、次年度以後の継続的体制作りについては人員の問題から見送ることになり、今年度は25年度の成果の公表に力を注ぐこととする。 その他、当初予定していなかった肥前神埼荘跡地の踏査なども行なった。また前年度予定していたノートパソコン購入も行ない、史料調査に役立てた。
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今後の研究の推進方策 |
日文研本『空華老師日用工夫略集』について、すでにテクストデータは完成しているが、本年度には検索に有効になるべく仕様の調整を行ない、十全な形での公開を目指す。また『空華老師日用工夫略集』データベース公開後には、未翻刻の中世禅籍をテクスト化する計画があり、これを可能にする体制を作ることを目指す。そのための前提とすべく、各種写本・古版本の調査・撮影を継続して行なう。また国立公文書館など資料の写真撮影が可能な図書館も増えてきたため、年度初めにカメラや撮影機器の購入を行ない、より高精度な写真の収集を目指す。 国内の史跡調査地としては、現時点では鎌倉時代の入宋僧に関わる山岳寺院の踏査を考えている。一つは曹洞宗総本山の福井県永平寺である(入宋僧道元の創建)。本寺はいうまでもなく鎌倉・南北朝時代において中国仏教導入の一つの拠点であり、しかも当時の主流だった五山寺院とは異なる導入方法を見せた。その寺院の現況を踏査し、あわせて近辺の資料館で当該地域の文化に関する資料の調査を行なう。 もう一つは中世中国系石造物の現存が近年確認された福岡県首羅山である(入宋僧悟空敬念の中興)。当地の史跡はまだ十分には整備されていないが、すでに現地の研究者に調査協力を仰ぐことを要請し、快諾を得ている。なお近年文献資料以外にも、日中文化交流の跡を伝える現物資料が多く発見されており、今年度は他にもこれら石造物の調査を可能性がある(鹿児島県沿岸部など)。 海外について、前年度のトルファン・敦煌調査に続いて、ウズベキスタンのサマルカンド・ブハラで、史跡踏査および資料館での仏教文物・文書の調査を予定している。これらは南北朝~唐代の東西仏教交流の拠点であり、イスラーム時代にもティムール朝やシャイバーニー朝など、明朝に影響を及ぼした有力国家の拠点だった。またこれら調査に先立ってタブレット端末を購入し、調査用資料の軽量化と効率化を図る。
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