研究課題/領域番号 |
24720312
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
榎本 渉 国際日本文化研究センター, 研究部, 准教授 (60361630)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 対外関係 / 文化交流 / 仏教 / 禅宗 / 中世史 / 中国 / アジア |
研究実績の概要 |
1)『空華日用工夫畧集』全文テクストデータベースを日文研WEBサイト上に「中世禅籍テキストデータベース」として公開した(http://db.nichibun.ac.jp/ja/category/zenseki.html)。本書は南北朝時代の五山僧義堂周信の日記だが、当該期の日本禅林における日元・日明間の往来の様子を豊富に含む貴重な一次資料であり、仏教・儒教・漢詩文等に関わる中国系文物受容の様子も詳しく知ることができる。本書はデータベース化が予定されている叢書類に未収録であり、データベース公開は中世日中交流史研究において重要な意味を持つ。 2)国立公文書館・九州国立博物館・愛知県熱田神宮で中世仏教史料の調査を行なった。特に九州国立博物館で初公開された入元僧無夢一清の関係資料からは、従来知られなかった日元交通の重要な資料も見出した。また福井県永平寺では、鎌倉時代に入宋僧によって整備された伽藍配置の痕跡を実地踏査した。 3)中世対外交流に関わるこれまでの成果を「宋元交替と日本」と題して『岩波講座日本歴史』7巻、中世2(岩波書店、2014年)に発表し、抜刷を作成してこれを配布した。本稿では『蒙山和尚行道記』など、本科研での資料調査の結果存在が初めて明らかになった僧伝資料も利用されている(『南宋・元代日中渡航僧伝記集成』勉誠出版、2013年で紹介)。 4)インドネシアのジャワ島で、古代仏教遺跡の実地踏査および博物館での展示品の調査を行なった。11~14世紀のジャワはモンゴルの撃退や宋銭の流通など対中国関係において日本と共通する点が多く、また古代以来日本と同様に密教による王権の荘厳が行われるなど、東南アジアでも特に興味深い地域である。中世日本との比較は今後の課題である。なおデジタルカメラとタブレット端末を購入し、本調査に活用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)当初予定していた事業にデータベースの継続的構築があったが、作業を依頼していた人員が一身上の都合により協力を仰ぐことができなくなったことから、25年度までに構築していた『空華日用工夫略集』のデータベースの公開を優先させた。26年度中に完成を計画していた『十禅支録』『明極録』は作成途中で止まっていたが、これら中世禅籍は古記録・古文書と異なる特殊な語彙を以て記され、これを扱う能力を持つ人材は希少なため、新たな人員を見いだすことができなかった。なおデータベース作成に並行して行なった写本調査等の成果を踏まえて、「日記と僧伝の間―『空華日用工夫略集』の周辺―」を倉本一宏編『日記・古記録の世界』(思文閣出版)に発表した。
2)国内史跡調査の候補地として、当初は福井県永平寺・福岡県首羅山を予定していた。このうちで永平寺については予定通り遂行し、首羅山については別経費で遂行した。特に首羅山については、多くの中国系遺物の出土および九州特有の宋風石獅子・薩摩塔の存在が特徴だが、石獅子・薩摩塔は中国製のものが商船で日本に持ち込まれたものであることが、近年の研究で明らかになっている。石獅子・薩摩塔は13世紀前後のものと考えられているが、13世紀には入宋僧悟空敬念が首羅山を中興しており、いわばこの山では入宋僧によって畿内・鎌倉とは異質の中国的な宗教空間が形成されていた可能性がある。
3)海外調査については、当初予定していたウズベキスタンを変更し、インドネシアのジャワ島を対象とした。古代・中世ジャワ島の仏教受容や対中国貿易の様相には日本と比較すべき点が多いが、従来これは充分に行なわれてきたと言い難い。本調査はいまだ予備段階にとどまるが、東南アジアでも特に多くの消費人口を抱えたジャワ島の対中国関係を日中関係と比較することの有用性を認識することができた。
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今後の研究の推進方策 |
データベース構築については、現時点でも新たな人員を見出していない。新たな人員が見いだされれば作業を継続させる予定だが、本年度中に公開まで至るのは困難と予測される。 国内調査については、考古遺物の調査と実地踏査を重点的に行なうことにする。本課題はこれまで文献資料を中心に研究を進めてきたが、前年度の福岡県首羅山調査の折に教育委員会の担当者との情報交換で明らかになったのは、首羅山周辺に中国系の遺物を伝える山岳寺院跡がいくつか点在していることである。文献上で断片的な情報しか得られないこともあり、海上交通に着目した研究ではこれら山岳寺院の世界はあまり注目されてこなかった。しかし一見海とは無縁の山岳寺院のネットワークは、実は海外の仏教文化の伝達に大きな役割を果たした可能性がある。この点で注目しているのは、南宋仏教導入の嚆矢となった栄西の活動である。栄西が入宋前に活動していた備中・伯耆の山岳寺院は出雲・美作や大和とも連絡を持ち、平安末期日本における中国仏教への関心が醸成されたのは、実はこの山岳寺院の世界だったと予測している。そこで本年は福岡県首羅山周辺や岡山・島根・鳥取などの山岳寺院についての文献調査と実地踏査を軸に据えることにしたい。これらの調査を踏まえた12~13世紀日本の宋仏教受容の様相については、年度内に成果公表を目指す。 海外調査について、インドネシアは、中世日本との比較対象として極めて重要な地域であると実感している。本年度はジャワ島と並ぶ重要な場所としてスマトラ島の調査を行ないたい。ただし現地の治安がいまだ不透明なこともあり、その実施については慎重を期す必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
データベース作成のための人件費として予算を確保していたが、採用にまで至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
データベース作成の予算として確保しておくが、年度後半にも妥当な人員が見いだされない場合は、仮データ作成のための業者発注用の予算、もしくは調査用の旅費として使用する。
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