国内においては、福岡県の中世山岳寺院跡である首羅山遺跡の周辺にある山岳寺院跡の遺跡の踏査を、久山町教育委員会の江上智恵氏の協力で、平成27年4月に実施した。その結果、中国製石造物の伝来や寺院跡地での宋代青磁片の散在を確認し、文献のみでは知り得ない日宋仏教交流の様相を知ることができた。中国系石造物をめぐっては、他の研究者とも研究上の連絡を取って、研究分担者として科学研究費の応募を行ない、平成28年度に採択された(研究代表者:市村高男)。 また平成28年2月には入宋僧栄西に関わる岡山県の史跡を踏査し、栄西入宋の前提としての入宋前の宗教的環境を確認した。この問題についてはすでに本課題の遂行の中で検討を行なっており、その素案は平成27年11月、中国浙江工商大学の国際シンポジウム「日本の中国文化に対する摂取と創造」で「平安末期の天台僧における中国仏教への関心 ―栄西入宋の前提―」として報告を行ない、現在はその報告と岡山調査の成果を元にした論文の投稿の準備を進めている。 海外においては、中国で日中仏教交流の要地の調査を行なった。まず平成27年11月には、中国現地研究者の協力も得て、浙江省の現地踏査を行なった。杭州では南宋期日宋交流の中心地である径山で副住職の協力も得て寺内の文物調査を行ない、湖州では入元僧の参学地万寿寺の踏査を行ない、鉄仏寺では入唐僧の去就に大きな影響を与えた会昌廃仏に関わる石刻を見出した(日本未紹介)。嘉興では城域の運河跡や博物館での展示品の調査を行なった。舟山では渡来僧鑑真や入宋僧成尋が日中交通の折に目視した洋山島に上陸し、海洋条件の確認を行なった。 ついで平成28年1月には、山東省東岸地域を巡査し、その航海条件を文献資料と突き合わせつつ確認するとともに、入唐僧円仁の日記に現れる地名の比定を行なった。
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