研究課題/領域番号 |
24720315
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研究機関 | 九州歴史資料館 |
研究代表者 |
渡部 邦昭 九州歴史資料館, その他部局等, 研究員 (00615825)
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キーワード | 近現代史 / 地域交通 / 政党 / 軍部 / 博多湾鉄道 / 朝倉軌道 |
研究概要 |
平成25年度においては、研究対象としていた二つの鉄道会社、博多湾鉄道(後に博多湾鉄道汽船に改名)と朝倉軌道の内、博多湾鉄道の経営状態について、ある程度解明し、その結果を『九州歴史資料館研究論集39』に「博多湾鉄道汽船の経営」として発表することができた。 具体的には、九州産業大学においてマイクロフィルムで所蔵されていた博多湾鉄道の「営業報告書」の内、現存しない明治期を除いた大正~昭和期のほぼ全ての期について収集、整理し、その内容を図表化した。これによって、博多湾鉄道の経営が、一面においては海軍の石炭の輸送に支えられていたことを確認しつつ、その収入・利益率の大きさには時期によって相違があること、特にロンドン海軍軍縮条約時は、海軍炭が会社にもたらす利益が減少したことを明らかにした。さらに博多湾鉄道と平行しながら海軍炭輸送の少なかった鉄道会社、筑前参宮鉄道の「営業報告書」も精査し、その経営を博多湾鉄道の経営と比較することで、海軍炭の輸送の有無が両社の輸送・経営状態に、差異を生ずることも確認した。なお、この比較研究の成果は、平成26年2月25日に行われた福岡県文化財指導者講習会において「糟屋炭田における石炭の鉄道輸送について」と題した講演でまず発表し、今後論文の形でまとめる予定である。またこの他に、県内各地の鉄道に関する資料調査の過程で得られた成果を、九州歴史資料館においてパネル展示の形で公開した。 以上を通して、本年度は当初の研究目的の一つ「鉄道・軌道(及びその鉄道・軌道を経営する地域社会)から政党、軍部を見る」ために行う二つの鉄道会社の経営状態解明のうち、博多湾鉄道については、これを達成し、実績としてまとめることができたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度においては、前年度において遅れが生じた、研究対象となる鉄道会社の経営状態解明を優先して行い、ある程度実績としてまとめることができた。特に博多湾鉄道については、「営業報告書」が入手できた年代の調査を終了させ、その内容を『九州歴史資料館研究論集39』で発表している。また、もう一つの研究対象会社、朝倉軌道についても、平成25年度に「営業報告書」を収集し、現在その内容を整理している。そのため最終的に両社の経営状況を解明し、鉄道・軌道会社から見た軍部の存在の意味について、研究をまとめることができるのは、ほぼ確実となった。 しかしながら、本研究のもう一つの柱である、地域交通と政党とのかかわりを解明し、これによって最終的な研究目標である「鉄道・軌道(及びそれと関わる地域社会)と政党、軍部の3者の関係を一体的に分析する」ことについては、現時点では予定通りには進行していない。これは昨年度の研究の遅れに加え、資料の存在状況解明が難航しており、研究に必要な資料が発見できていないことによる。 以上の理由により、現時点での研究達成度は、当初計画よりやや遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度においては、平成25年度までに準備作業が完了している朝倉軌道の経営状態解明を最優先に行い、研究目的の一つ「鉄道・軌道(及びその鉄道・軌道を経営する地域社会)から政党、軍部を見る」の完了を期す。また他の九州歴史資料館研究員等と協力して、防衛省防衛研究所に所蔵されている資料を調査し、博多湾鉄道と朝倉軌道の経営に対する軍部の関与の度合いを明らかにして、上記目的による研究の補強とする。 さらに国立国会図書館において政党関係の資料を調査する。特に多田勇雄、太田清蔵など鉄道会社経営者による政治活動の姿に迫り、当初の研究計画の完了を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画において予定していた、研究対象に関する資料の入力などを行うアルバイトの雇用が、資料収集の遅れのため実施できなかったことによる。また資料収集・調査の回数が、予定よりも減っていたため、充当予定であった旅費の執行が遅れた事情にも因る。 必要資料の収集・調査は遅れていながらも進んでいるため、平成26年度においてはアルバイトの雇用人数または期間を当初予定より拡大させ、計画していた資料の入力作業の完了を目指す。また、平成25年度において実施できなかった国立国会図書館における調査、またその他の博物館等における調査を実施するための旅費にも充当する。
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