研究最終年度においては、前年度までに収集した朝倉軌道等の「営業報告書」のデータ入力作業を継続し、完成させた。また国立公文書館・筑紫野市歴史博物館において朝倉軌道等に関連する文書の調査も行い、朝倉軌道が軍事輸送に関して述べた文書や、軍事輸送に関する当時の福岡県と佐賀県の見解を記された公文書を発見した。その上で、朝倉軌道の経営と軍事輸送の関係をまとめ『九州歴史資料館研究論集』40に投稿した。さらに研究成果発表として、九州歴史資料館で展示を実施し、福岡地方史研究会刊行の『地方史ふくおか』156 にも研究成果を投稿した。また福岡地方史研究会総会、全国石炭産業関連博物館等研修交流会において講演等も行っている。そして研究成果を全てまとめた上で、研究成果報告書を九州歴史資料館から刊行した。 そして研究期間全体の成果として、二つの点を明らかにした。一つ目は地域交通事業者が軍事輸送から得られる利益は、必ずしも常に大きくはなかった点、二つ目は、軍部や行政が地域交通事業者に対し、採算の低い事業の実施をも期待し、その期待を事業者も認識していた点である。この二点から、軍事輸送に対する事業者と軍部・行政の利害は、必ずしも一致してはいなかったことを明らかにした。これは軍事費を支出する側と受け取る側に利害の不一致があったことを示し、近代日本における軍隊と地域社会との経済的関係を考える際、一つの検討事例になり得るという意義を有している。 一方で、この軍事輸送の解明と並んで当初もう一つの目標としていた政党と地域交通事業者との関係については、史料不足等で十分な成果を上げることができなかった。しかし朝倉軌道の経営者が、代議士として朝倉方面への国有鉄道誘致に取り組んでいたことが判明しており、今後はこの点を中心についてさらに検討を進めていきたい。
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