研究課題/領域番号 |
24720317
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
箱田 恵子 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (50569233)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 中国外交 / 門戸開放政策 / 外交官 |
研究概要 |
1年目の本年度は、国内外での史料収集を重点的に行なった。 まず、海外における調査は次の2件の史料調査がその中心となった。1件目は北京大学所蔵の『呉宗濂信稿』(全11冊)の閲覧であり、1909~1911年に駐イタリア公使を務めた清国外交官の呉宗濂が、その公使在任期間中に外務部や他の外交官に送った書簡の内容を検討した。2件目は香港大学所蔵のThe Peking Daily Newsの調査である。The Peking Daily Newsは1909年に外務部が対外広報手段として発行しはじめた英字新聞である。今回の調査では、The Peking Daily Newsの発刊当初の部分(1909年5月初めから6月末まで)と、その前身であるThe Chinese Public Opinionの1908年5月初めから1909年4月末の全期間について、広告を含めた全紙面のデータを収集することが出来た。 国内では『清代軍機処電報档案彙編』所収の電報や『申報』、『東方雑誌』などの新聞雑誌などから、孫宝埼・陸徴祥・劉式訓ら在外公使や本国の外政担当者の門戸開放主義や自開商埠政策に関する言動を取り出し、整理を進めた。また、東洋文庫所蔵の鄒嘉来『儀若日記』の調査を行なった。鄒嘉来は長年外務部司員を務めた人物であり、清国をめぐる国際環境が大きく変わる日露戦争前後の時期について、『儀若日記』の内容を調査し、外務部周辺の動きやその認識を検討した。 また、門戸開放の前提として20世紀初頭に注目されることとなった領事裁判権撤廃問題とそのための法制改革について、先行研究やFOなど関連の外交史料を収集するとともに、同じく門戸開放主義への対応として在華外国人の地位について考察したものである顧維鈞の論文The Status of Aliens in China(1912年)に分析を加えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れているとした理由は、1年目の研究計画の中で特に重視していた香港大学でのThe Peking Daily Newsの調査が3月下旬になり、データの収集だけで終わってしまい、年度内に内容の分析にまで進むことができなかったことがある。この香港大学での調査時期が3月下旬になってしまった背景には、2012年9月の中国における反日デモの影響がある。この反日風潮の高まりをうけ、9月下旬に予定していた別の研究計画に関わる北京での調査を延期したため、本研究計画を含む2012年度の中国での調査計画を全体的に見直さざるを得なかった。さらに、学内業務との調整の必要もあり、結局、香港での調査は3月下旬に行なわざるを得なかったからである。なお、先行研究によれば、The Peking Daily Newsは北京の国家図書館にも所蔵されているはずであり、1997年時点ではその原史料の閲覧・複写が可能であった。しかし、2012年8月に報告者が国家図書館を訪れた際には、マイクロ化がなされていないことを理由に閲覧を許可されなかった。このため、この史料のデータ収集は香港大学での調査を待つこととなった。 もう一つの理由として、北京大学で調査した『呉宗濂信稿』が期待したほどの内容を含むものではなかったことがある。在外公館の実務の実態や辛亥革命時の対応などについて、興味深い内容を含むものであったが、呉宗濂の国際情勢に対する認識に関する情報は限られていた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、24年度に収集した史料の分析を行なう。特にThe Peking Daily Newsとその前身紙の分析を進めることとする。また、引き続き新聞・雑誌などを含めた幅広い史料から、清国外交官の門戸開放政策や国際情勢に対する認識、門戸開放の前提として重視される領事裁判権撤廃に関わる議論などの史料を収集・整理する。このため、東洋文庫や京都大学人文科学研究所などでの史料調査を行なう予定である。 また、中華民国の著名な外交官であり、門戸開放主義に対応した論文を著している顧維鈞について、その外交思想の背景を探るため、顧維鈞の蔵書を集めた天津図書館「顧維鈞西文図書」の調査を行なうこととする。このほか、上海図書館、上海市トウ案館での調査も予定している。上海図書館では、外務部司員を長く務めた鄒嘉来の日記の1909年前後の部分を調査し、1909年以降の外務部の変化を探る。上海市トウ案館では顔恵慶の日記の調査を予定している。 また、門戸開放への対応と関連して、領事裁判権撤廃とその前提としての法制改革が急務とされたが、この時期の領事裁判権撤廃という条約改正問題について、門戸開放主義への対応という対外政策の延長から捉え、分析を加えることとする。 さらに、中国外交官の門戸開放主義に関わる言動を外国側がどのように評価していたのか、英・米・日の外交文書や『順天時報』などの新聞記事などを調査することとする。 そして、本研究について一定の成果を順次、論考としてまとめるとともに、中国もしくは台湾での学会で報告し、海外の研究者との意見交換を行ない、それにより新たな史料の調査・収集や史料分析の深化、異なる視点の獲得などの機会を設けることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当しない
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