本研究では、イスラーム政治思想における「正統カリフ」概念の形成・確立の過程、およびイスラームの多数派であるスンナ派の集団形成や自己認識に同概念がいかなる役割を果たしたか、の解明に努めた。 その結果、ムハンマドの教友の序列化と有徳性の確認作業こそが4人の「正統カリフ」という概念形成の淵源であったこと、またその作業はアリーとその子孫にイスラーム共同体の支配権が存すると主張するシーア派への対抗上、必要とされたこと、そしてその作業の妥当性と「正統カリフ」概念を認める人々こそが「スンナ派」という集団を形成したこと、以上の結論を得た。
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