研究課題/領域番号 |
24720320
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 紳 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (50587938)
|
キーワード | オスマン帝国 / トルコ / ムスリム知識人 / 帝国意識 / 文明意識 / 定期刊行物 / パン・イスラーム主義 / 国際研究者交流 |
研究概要 |
本研究は、19世紀後半のオスマン帝国で活動したムスリム知識人の言説に見える帝国意識や文明意識のあり方を明らかにすることを目的にしている。具体的には、オスマン帝国のムスリム知識人がオスマン帝国の内外で発行した新聞・雑誌・パンフレットなどの刊行物の分析を通して、当時のオスマン帝国が抱えていた国内事情や置かれていた世界史的文脈にも留意しつつ、オスマン・ムスリムの知識人の抱く帝国意識・文明意識のあり方を考察するものである。 当該年度の国内での活動として、著書2編(単著1編、共著1編)を発表した。このうち、佐々木紳『オスマン憲政への道』(東京大学出版会、2014年)では、1860年代から70年代のオスマン帝国で立憲運動を展開した知識人グループ「新オスマン人」の政治的議論を分析するなかで、彼らの言説に立憲主義と帝国意識との交錯を見いだした。佐々木紳「ナームク・ケマル『祖国あるいはスィリストレ』:19世紀オスマン帝国の愛国的戯曲をめぐって」柳橋博之編『イスラーム 知の遺産』(東京大学出版会、2014年)では、オスマン国民の愛国心を謳った戯曲がオスマン帝国のムスリムに支持された背景として、帝国の支配層を自任するオスマン・ムスリムの帝国意識の存在を指摘した。 当該年度の国外での活動として、2014年8月25日から9月8日まで、トルコ共和国イスタンブルに出張し、イスタンブル大学貴重書図書館、アタテュルク文庫、トルコ宗教財団イスラーム研究センター(ISAM)、およびイスタンブル市内の書店で本研究に関連する史資料の調査・収集をおこなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国内の活動では、当該年度の後半を中心に単著・共著の刊行準備に追われたため、本研究の成果の重要な部分を盛り込むことこそできたものの、本研究のための史資料の分析に割ける時間がやや減少した。年度末には所属先の異動準備にともない、やはり本研究自体に割ける時間が減少した。とくに、準備を進めていたパン・イスラーム主義と帝国意識との関係を論じる予定の査読論文の作成が滞った。国外での活動では、約2週間の海外出張のなかで、定期刊行物史料や紀行文の調査・収集をスムーズにおこなうことができた。全体として、国内での活動を中心に、研究はやや遅れを来しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
国内では、オスマン知識人がさかんに論じたパン・イスラーム主義とオスマン・ムスリムの帝国意識との関係を明らかにする査読論文の完成をめざす。また、オスマン知識人の立憲議会論に見える帝国意識・文明意識の問題についても、著書で示した展望を敷衍する形で、学術論文や研究紹介を通して学界に広く発信していく。 国外では、当該年度の前半、とくに9月までにトルコ共和国での史料調査・収集を済ませ、本研究の取りまとめに必要な準備を整える。所属先の変更にともない、海外出張に割ける時間が大幅に減少したため、当初予定していたヨーロッパ諸国での史料調査・収集については努力目標とせざるをえないが、電子媒体で史資料を購入するなどして、当初の計画に近い形で研究の進展を図る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度、平成25年度の助成金をほぼ計画通りに使用したため。 本研究は、オスマン・トルコ語の定期刊行物を主たる一次史料とする外国史研究である。このため、研究費の大半は、史資料の調査・収集のための旅費、および史資料・関連文献等の物品費に使用する。当該年度も前年度に引き続き、旅費と物品費にあてる。
|