研究課題/領域番号 |
24720321
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
五十嵐 大介 東京大学, 人文社会系研究科, 客員研究員 (20508907)
|
キーワード | 東洋史 / 西アジア・イスラーム史 / 黒死病(ペスト) / 寄進 / マムルーク朝 / 慈善 / 中世 / エジプト |
研究概要 |
ペストの流行という社会的状況の中で、人々がイスラーム寄進制度(ワクフ)をどのような形で用いていたか、という視点から、昨年度に続き、15世紀エジプトの有力行政官僚ザイン・アッディーン・アブドゥルバースィトの寄進文書を解読し、他の年代記史料と比較した。それにより、彼が王朝の直接支配下にあったエジプト・シリアのみならずメッカ・メディナというイスラームの二大聖地においても積極的な寄進事業を実施していたことを明らかにするとともに、他の有力官僚の寄進事業の事例と比較した。以上の成果は、「後期マムルーク朝の官僚と慈善事業:ザイン・アッディーン・アブドゥルバースィトの事例を中心に」というタイトルで、中央大学出版部より刊行された共著『アフロ・ユーラシア大陸の都市と国家』に発表した。 それと平行して、15世紀の人名録であるサハーウィーのDaw'から、ペストが流行した年に死亡している人物、実際にペストが原因で死亡したと述べられている人物の情報を集めながら、死者の社会的属性や死亡年齢の検討、他の年との志望者数の比較などを進めている。 また、12月にはマムルーク朝研究の大規模なプロジェクトを実施しているBonn大学Annemarie Schimmel Kollegに招かれ、Land Tenure and Mamluk Waqfsというタイトルで講演を行った(なお本講演のペーパーは近日刊行の予定である)。それに併せて、同Kollegの図書館において資料調査を実施し、史資料を入手した。 3月のエジプト出張では、国立図書館・文書館にて資料を閲覧するとともに、書店にて近年出版された史料や研究書を購入した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドイツとエジプトでの資料調査がうまくいったことに加え、共著書の刊行と海外での招待講演を行い、研究成果を内外に公表できたことは大きな収穫であった。
|
今後の研究の推進方策 |
アブドゥルバースィトの慈善事業について得られたこれまでの成果を踏まえ、それを実行した当時の個人的社会的状況と重ね合わせながら、慈善の動機や心性について、特にペスト流行という社会状況に留意しながらアプローチすることを試みる。 また、引き続きサハーウィーのDawを初めとする人名録や年代記を読み込み、ペストとワクフに関する記事を抽出していく。また、ワクフ文書の読解も進めていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
購入予定であった書籍の入手が遅れたため。 物品費として書籍の購入費に充てる。
|