研究課題/領域番号 |
24720321
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
五十嵐 大介 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (20508907)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 東洋史 / 西アジア・イスラーム史 / 黒死病(ペスト) / 寄進 / マムルーク朝 / 慈善 / 中世 / エジプト |
研究実績の概要 |
ペストの流行という社会的状況の中で、当時の人々がイスラーム寄進制度(ワクフ)をどのような形で用いていたか、という視点から、前年度に引き続きマムルーク朝の有力官僚Zayn al-Din Abd al-Basitの寄進文書の分析と、年代記などの他の史料との比較検討を進めた。彼のワクフ寄進がどのような個人的・社会的状況の中で行われたか、という観点から、寄進が行われた当時の政治的・社会的・個人的状況について検討した。それを踏まえ、Abd al-Basitが人生の様々なステージで、また異なる社会的状況下で、何を目的としてワクフを設定したか、彼の動機や心性を考慮に入れた全体的な「ワクフ戦略」の検討を開始した。また、研究の結果、Abd al-Basit本人は勿論、時のスルタンも含め、多くの有力者がペストを初めとする社会不安の折にしばしばワクフを設定している様子が窺えた。それを踏まえ、エジプトのワクフ文書カタログを用いながら、スルタンらによって行われた大規模な宗教施設の建設事業とそれに対するワクフ寄進の実行年が、ペスト流行やその他の社会不安の時期とどの程度重なるか、比較検討を開始した。 昨年度にBonn大学Annemarie Schimmel Kollegで行った招待講演をもとにした英文単著Land Tenure and Mamluk WaqfsがBerlinで刊行された。またこの時代のワクフ制度と軍人支配層との関係を扱った英文著書Land Tenure, Fiscal Policy, and Imperial Power in Medieval Syro-egyptを執筆した(近日刊行予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英語での単著が二冊刊行されることは、研究成果の海外発信という点からも非常に大きな成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度でもあり、研究成果の公表に努める。現在手がけていたAbd al-Basitのワクフ戦略についてまとめるとともに、これまでに明らかにした部分と併せ、英語での論文発表を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
中東地域の政情不安のため、3月に予定していたエジプト調査を見合わせたため。
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次年度使用額の使用計画 |
英語論文作成のための翻訳代およびネイティヴ・チェック代に支出する。
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