研究課題/領域番号 |
24720322
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
大坪 慶之 三重大学, 教育学部, 准教授 (30573290)
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キーワード | 清末 / 政策決定過程 / 垂簾聴政 / 西太后 / 光緒帝 / 親王 / 軍機大臣 |
研究概要 |
二年目となる平成25年度は、これまでに収集した史料を分析して論文にまとめると同時に、昨年度からの海外調査を継続した。そこではまず、これまで集めた史料の中から、特に日清戦争時期のものを取り出し、分析を進めた。日清戦争が起こった1890年代の清朝では、皇帝の成人に伴い、皇帝親政でありながらも西太后が一定程度の権力を握るという状況が現出した。このこと自体は、当時から知られているが、政策を決定するにあたっての二人の関係が具体的にどのようであったのかは、よく分かっていなかった。そこで、清末の中央政界にて重要な地位を占めた翁同和(もとは古字、以下同じ)の日記を分析し、それを二本の論文にまとめた。また、翁同和の日記の一つである『翁同和日記』の原本に基づく新たな版本が出されたのを受け、その特徴を他の日記とともに整理して発表した。 海外調査では、昨年度の北京調査で発見した、中国社会科学院近代史研究所に所蔵される書簡の把握に努めた。この書簡は、当時の朝廷の中枢を構成していた皇族や官僚の手によるものであり、公文書には記載されない水面下の動きを知るうえで重要である。調査に出発する前に、これらの書簡の閲覧申請について調べたところ、現在は史料保存のため原本を影印出版し、その閲覧を勧めているとのことであった。そこで、調査の効率をあげるために、出版された書籍と他の関連史料の双方を持つ台湾の中央研究院を訪問することにした。本年度の調査は、まず光緒帝の生父である醇親王の手による書簡の閲覧からはじめた。現段階では、関連史料が集めきれていないこともあり、書簡の位置づけが十分にはできていないが、醇親王の地位を考えると有用であると考えられる。また未読の書簡には、他の親王や軍機大臣、および李鴻章ら地方大官のものも多く含まれる。そのため、今後のさらなる調査が必要と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、皇太后が政策の決定権を持ち、親王ら皇族が補佐する垂簾聴政期の清朝中央における政策決定のあり方を解明し、その構造と特質を明らかにするという目的のうち、後者を開始した。方法としては、同じ西太后が権力を握っている時代とされながらも、皇帝が親政していた1890年代の政策決定過程を、これまでと同様に考察して比較対象とすることで、その特質を考えるための第一歩とすることを目指した。その結果、1890年代半ばの清朝中央では、皇帝親政という建前と、政策決定への関与に意欲をみせる西太后の存在という実態との間で折り合いをつけるために、様々な工夫をしていたことが判明した。それについては、「日清講和にむけた光緒帝の政策決定と西太后」『史学雑誌』123-3、2014年および「光緒帝親政期における西太后の政治関与」『ふびと』65、2014年に論文としてまとめ、その成果を発表した。また論文執筆において明らかとなった翁同和の各種日記に関する特徴を整理してまとめた。その成果は、「翁同和の日記とその史料的価値」『満族史研究』12として発表している。 書簡の調査については、全体像の把握を最優先の課題として進めたが、膨大な量があるため、時の皇帝である光緒帝の生父醇親王のものから開始した。書簡は草書体で書かれていることもあり、予想以上に時間を要するものとなったが、ひとまず醇親王のものは、一通り目を通すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、北京の中国社会科学院近代史研究所を訪問して、書簡の原本を閲覧する方針であったが、影印出版が進められた結果、書簡が原本ではなく書籍による公開に切り替わりつつあることが判明した。現段階では、同研究所が収蔵する書簡の全てが影印されているのか、その一部にとどまっているのかは分かっていないが、作業効率を考えた場合、まずは出版された書簡を閲覧するほうが望ましいと思われる。 一方で、中国社会科学院近代史研究所収蔵の書簡は出版されたとはいえ、膨大な量をほこる叢書であるため、それを所蔵する図書館は限られてくる。そこで、今後は関連史料の収集を同時に進められる図書館を利用しつつ、書簡の全体像の把握に務め、北京での調査について計画を立てることとする。
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