研究実績の概要 |
平成27年度: 報告者は研究課題(1)-2の成果を、学術論文「19世紀後半ロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域のムスリムの遺産分割争い―オレンブルグ・ムスリム宗務協議会による「裁判」とイスラーム法」にまとめ、『東洋史研究』74(2)で公刊した。そして、研究課題(1)(2)のための作業で得られた史資料を読解・分析し、その成果を学術論文「東洋学者とつながるムスリム知識人」にまとめ、『歴史評論』783号で公刊した。同じく研究課題(1)(2)のための作業として、海外研究協力者であるM・ファルフシャートフ氏とR・ブルガーコフ氏(ロシア科学アカデミー・ウファ学術センター歴史・言語・文学研究所)との共編著で、“My Biography” of Rida' al-Din b. Fakhr al-Din (Ufa, 1323 A.H.) with an Introductory Essay and Indexesを、TIAS Central Eurasian Research Series No. 11として公刊した。これはNIHUプログラム・イスラーム地域研究東京大学拠点との共同成果でもある。 海外での作業については、9月2日~18日の17日間、ロシア連邦ウファ市の諸文書館・図書館で史資料の所在調査と収集を行なった。その結果は上記公刊物に含まれる。 研究期間全体: 報告者は、19世紀後半~20世紀初頭のロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域のムスリムがイスラーム法に由来する規範に基づいて遺産の相続分を算定する場合の法的制度と、その運用実態を明らかにした。これはロシア帝国のムスリムを対象とする法社会史研究が可能であることを示すものである。このことは、従来法的アプローチに強くない中央ユーラシア史研究分野で大きな意義を有するし、ロシア史研究分野にも、国制史のみならず、社会史レベルでも研究を行なう必要性を提示するものと評価されるだろう。
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