1、『巴県档案(同治朝)』〈婦女〉の分析:離婚に至る訴訟に関して、夫婦間の訴訟に注目し、訴訟に至った夫婦の通婚圏の狭さや、契約関係を争点とした紛争が裏面にあるという特徴を見出した。また従来ほとんど知られていない妾による訴訟について、夫婦とは異なり都市部に集中し、家庭内暴力や売春強要等が原因となる場合が多いことを明らかにした。 2、関連資料の収集:昨年度に引き続き、2014年8月18日~25日に中国・重慶市での資料・現地調査を実施。重慶市巴南区档案館等で重慶地域の地方史料および民国時代の档案史料を幅広く閲覧・収集した。また重慶市では巴南区石龍鎮と太平場の現地調査も実施し、農村部の寺廟や生活について調査したほか、民間に所蔵される族譜資料なども閲覧した。国内では東京大学東洋文化研究所、立命館大学等で関連資料を収集したほか、慶應義塾図書館で『巴県档案(乾隆朝)』〈婦女〉のマイクロフィルムを閲覧、収集した。これらの過程で得られた民俗宗教関係の档案は、従来日本では知られておらず、下記論文のなかで紹介した。 3、重慶地域の研究:女性関係訴訟の背景となる重慶の地域的特徴について、とくに都市部と農村部の社会状況の違いに注目して分析した。『巴県档案』の〈内政〉、〈宗教〉の分類を中心に、寺廟を中心とした基層社会のあり方を考察し、2014年4月19日の史学研究会例会等で中間的な成果を報告した。これらを通じて、寺廟関係の訴訟ではしばしば女性が当事者となることを確認し、また社会的に弱い立場にあった女性にとって、寺廟がアジールとなる可能性を実態に即した史料から明らかにした。 4、成果の報告:重慶の地域研究の総括として「清代後期における重慶府巴県の寺廟と地方社会――『巴県档案』寺廟関係档案の基礎的考察――」を『史林』第98巻第1号に公刊したほか、来年発行予定の『東洋史研究』特集号に掲載する論文を執筆中である。
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