本研究は全体として、戦間期ハンガリーの社会政策を代表する「全国民衆家族保護基金」の在地組織の活動を分析し、社会政策と人種主義政策の結節点ともなった「健康で健全な家族」による国民の再生産という論理が、いかに国家と社会の協働の中で機能したかということを明らかにするものであった。社会政策と人種主義の同根性そのものについては、国家の政策全体のレベルで明らかにされているため、本研究の焦点はこの政策を現場で支えた在地社会の役割を明らかにすることに集中した。 この中で本年度は、平成24年度および25年度から継続してヨーロッパ自由主義史関連資料・ヨーロッパ戦間期史関連資料等の収集や、平成26年度までに収集した現地文書館史料の整理を行った。また「全国民衆家族保護基金」に関する一部の刊行史料の調査・収集を追加する必要が明らかになったため、本研究における最終的な現地調査を行い、この調査によって得られた資料を含む史資料を分析することによって、成果をまとめるに至った。 この調査・分析は、具体的には「全国民衆家族保護基金」による施策の目的と全体像の整理、同基金に先立って、またはこれとともに貧困家族支援の活動を行った社会団体と同基金を通じた国家レベルの政策の関係の分析、貧困家族を支援する担い手の国家および在地社会それぞれにおける位置付けの整理を目的として行った。これによって本研究は、戦間期ハンガリーの社会政策において国家と社会が共有していた価値は「生産的」な家族の促進であったこと、国家はそれを担うための新たな「専門家」の創出と管理を目指したこと、しかし実際にはむしろ在地社会の規範が優位に機能することによってこれが実現していたことを明らかにした。 以上の成果は本年度末に論考の形でまとめ、公開した。
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