本年度はオロモウツ司教領の所領拡大・入植運動のデータ整理をさらにすすめた。ブルーノ時代だけではなく、前後のロベルト、ジェトジフ時代まで広げて分析し、ブルーノ時代の革新性が確認できた。具体的には、ブルーノの前代にあたるロベルト時代までは、所領の自力拡大の痕跡は認められるものの、それが入植活動によるものであったという史料上の証拠はほぼ皆無であったことから、少なくともブルーノ時代に本格的に導入されたことが判明した。一方、次代ジェトジフは、ブルーノの所領拡大政策を基本的には継承しているようにみえる。引き続き入植を示す用語が複数確認でき、また後者の政策の特徴とされてきた授封行為とセットで史料に言及されているのである。ブルーノ時代には確認できない所領名も数多く登場し、ジェトジフが積極的に所領拡大に従事している様子がうかがえる。授封行為に関していえば、単に封土を授与するだけではなく、それと引き換えに要求する奉仕の内容に対する言及も増えてくる。したがって、従来はブルーノの個性に帰されてきたオロモウツ司教の東方植民誘致策も、たしかに彼の司教就任がきっかけになってはいるが、時代的趨勢のなかで理解できることが指摘できる。また、現段階では所領の所在地を地図上で確認する作業を済ませていないために、確実なことはいえないが、おおよそモラヴィアの北方にあたるシレジア国境付近での活動が活発化しているようである。モラヴィア/オロモウツ司教領の内的発展だけではなく、シレジアをめぐる政治的状況(シレジア諸侯の分裂、チェコ王への臣従など)も考慮に入れながら、入植運動と軍事的再編成の進展を把捉する必要性を指摘できる。
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