研究課題/領域番号 |
24720345
|
研究機関 | 大手前大学 |
研究代表者 |
西岡 健司 大手前大学, 総合文化学部, 講師 (70580439)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 中世史 / スコットランド / 聖人伝 / 歴史叙述 |
研究概要 |
本研究の課題は、中世盛期のスコトットランドにおけるナショナル・アイデンティティの形成過程について、同時代に作成された聖人伝を歴史叙述として読み解くことを通して、歴史認識の変遷という観点から、その道筋を明らかにすることである。 研究開始年度の平成24年度は、第一に、分析対象たる中世スコットランドの聖人伝に関する研究文献を網羅的に収集し、先行研究の整理を進めた。 第二に、既に刊行されている聖人伝史料を収集する一方、写本の原文の確認が必要な箇所について検討を加え、夏期に渡英してマニュスクリプトの予備的調査をおこなった。 第三に、聖人伝の叙述の分析自体に関しては、『聖ウォルデフ伝』の解読を具体的に進めた。同伝は、イングランドとの国境に近いスコットランド南部にあるメルローズ修道院の院長ウォルデフ(c.1095-1159年)の生涯を記したもので、13世紀の前半に、当時のメルローズ修道院長パトリックの依頼によって、ファーネスのジョスリンが作成したものである。国王デイヴィッド1世(在位:1124-1153年)の継子であり、王家ゆかりの有力な修道院の長であったウォルデフの聖人伝は、作成当時の王国の中心部における歴史認識の在り方をうかがい知るための貴重な材料となる。実際に、同伝の分析からは、主としてゲール系とアングロ=フレンチ系のアイデンティティが併存・競合していた13世紀前半の状況の中で、王国の歴史的展開に関する理解において、明確にイングランド的伝統を重視する立場が存在したことを確認することができた。 現在、『聖ウォルデフ伝』の分析からえられた結果をモノグラフとして公刊する作業を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は平成24年度中に二度の海外調査を実施し、マニュスクリプトの分析を終える計画であったが、体調の関係で年度末に予定していた海外調査を平成25年度夏に延期したため、史料分析の進行にやや遅れが生じている。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、夏期に延期していた二度目の海外調査を実施し、マニュスクリプトの分析を完了する。 その上で、各聖人伝の記述の解読を進め、個々の作品における歴史叙述の在り方を確認し、最終的にはそれらを総合して歴史認識の変遷の過程をまとめる予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度末に予定していた海外調査を延期した分、20万弱の繰越費用が生じている。当初の25年度分の費用と合わせて、諸雑費を除いて、夏期の海外調査および史料収集にすべてを充てる予定である。
|