研究課題
本研究は、東アジアから出土する様々な形態の槍先形石器の投射実験を行い、投槍器の使用を裏付ける量的に保証された評価基準を構築することを目的としている。そのため、東アジアの旧石器時代資料を調査した。最終的には、東アジアにおいて投槍器を用いた遠隔射撃狩猟が出現する時期を解明することを目指す。平成25年度は、槍先レプリカの製作、実験、実験試料の観察・記録化を進めた。また、これまでの実験結果の有効性、実験の改善・再実験の必要性、考古資料を評価する上での方法論の妥当性に関して検討した。検討の結果、遂行された投射実験は、衝撃痕跡のパタンと投射速度に強い相関を示し、考古資料を分析・評価する上で有効であると判断された。一方、石器レプリカの槍先形態の違いによる変異が大きいため、考古資料の評価には槍先タイプごとの指標が必要であることが明らかとなった。このため、槍先石器がどのように投射されたかを復元するための指標を、槍先タイプごとにまとめた。また、考古資料の評価にあたり、時間を要するミクロな使用痕分析が重要であることが判明した。このため、考古資料の分析にあたっては、当初予定より多くの資料に対してミクロな衝撃痕跡の顕微鏡観察をおこなった。その結果、狩猟具の投射方法のみならず、狩猟具と考えられていた石器の多様な機能が明らかなとなった。なお、本研究成果の一部を論文で発表し、またドイツ・シュレースヴィッヒで開催された国際先史学・原史学連合晩期旧石器時代研究部門シンポジウム等いくつかの学会で成果報告をおこなった。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度、予定していた槍先レプリカの製作、実験、実験試料の観察・記録化、考古資料の分析をおおむね予定通り進めることができた。槍先レプリカ観察・記録化では、顕微鏡下でのみ観察可能なミクロな痕跡が多く観察され、微細衝撃線状痕と呼ばれる典型的な衝撃痕跡の他、他の使用時に形成される光沢タイプと同様の痕跡も形成されることが明らかとなった。この事実は、考古資料の槍先形石器の機能を復元する上で重要であるため、実験試料の顕微鏡観察に当初予定より多くの時間を割いて進めた。その結果、実験の規模を縮小し、個別実験の解析からより多くの狩猟痕跡に関わる情報を得ることができた。考古資料の分析に関しても、ミクロな顕微鏡観察が重要であることが明らかとなった。このため、分析対象をミクロ分析が可能かつ有効な遺跡に限定して分析を進めた。この結果、マクロな衝撃痕跡に加え、ミクロな使用痕跡を多く観察することができ、旧石器時代狩猟具の多様な使用法を復元することができた。
平成26年度は、本プロジェクト最終年度であるため、実験結果の解析と考古資料の分析・評価をおこなっていく。考古資料調査に関しては、後期旧石器時代初頭遺跡の資料調査は既に終了した。したがって、後期旧石器時代後半期の遺跡を中心に資料調査を進める。同時並行で考古資料の分析結果を実験結果に基づいて解釈し、本プロジェクトの成果報告に当たる論文を作成する。また、実験試料に見出されたミクロ痕跡の形成パタンは、石器使用痕研究に寄与する部分が多いため、その成果をまとめて出版する。なお、本年度まとめていく成果に関して、国内外の学会においても発表する。
予定していた作業補助が、作業従事者の都合により次年度になったため、そこで発生する予定であった謝金が未使用となった。また、作業時に必要となる消耗品購入も次年度に回し、その分の消耗品費も未使用となった。次年度使用額43,624円は、予定していた作業を平成26年度に実施し、その際に発生する謝金と消耗品費に当てる。また、平成26年度請求額は800,000円で、この内物品費に90,000円、旅費に280,000円、人件費・謝金に280,000円、その他に150,000円を使用予定である。物品費は主に消耗品費、旅費は資料調査と学会での成果発表にかかる旅費、人件費・謝金はデータ整理に対する謝金、その他は成果報告書の出版費に当てる予定である。
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旧石器研究
巻: 10 ページ: 印刷中
考古資料に基づく旧人・新人の学習行動の実証的研究―「交替劇」A01班2011年度研究報告―
巻: 4 ページ: 85-90