本研究は、東アジアから出土する様々な形態の槍先形石器の投射実験を行い、投槍器の使用を裏付ける量的に保証された評価基準を構築することを目的とする。その上で、東アジアの旧石器時代資料を調査し、東アジアにおいて投槍器や弓を用いた遠隔射撃狩猟が出現する時期を解明する。 平成24・25年度に、槍先レプリカの製作、製作された槍先レプリカの投射実験、実験試料の観察・記録化を進めた。その結果、手突き、手投げ、投槍器、弓矢といった、投射法の違いに応じて衝撃剥離の発生頻度、衝撃剥離の規模、試料の残存度、が変化することを確認した。一方、先端部形状の違いが衝撃剥離の発生パターンに影響を及ぼすことも明らかとなった。これを受け、平成25年度には、槍先タイプに応じた衝撃痕跡の形成パターンをまとめた。 この間、同時並行で東アジア各地から出土した旧石器時代資料の分析を進めた。考古資料の分析の結果、槍先形石器の多くに衝撃剥離が観察され、実際に狩猟具として使用されたことを証明することができた。また、考古資料の評価にあたり、ミクロ痕跡の分析が重要であることが判明した。このため、実験試料に観察されるミクロ痕跡の形成パターンをまとめた。この結果、狩猟具の投射方法のみならず、狩猟具と考えられていた石器の多様な機能が明らかとなった。 最終年度に当たる平成26年度は、これまでの投射実験結果の総合評価をおこなった。その結果、投槍器や弓による遠隔射撃狩猟によって投射された槍先用石器を同定するためには、複数の衝撃痕跡の発生パターンを総合的に考察する必要があることが明らかとなり、その結果を論文として発表した。また、遠隔射撃狩猟を同定するための幾つかの指標を基に、これまで分析した考古資料を解析した結果、東アジアにおいても後期旧石器時代の早い段階から遠隔射撃による狩猟がおこなわれていた可能性が高いことが明らかとなった。
|