本研究は、後期旧石器時代末に展開する細石刃文化期の主要ツールである細石刃の使用痕分析を行い、九州内における細石刃の使用痕レベルでの地域性を把握することを目的とする。具体的には、鹿児島県内遺跡出土細石刃に認められる、片面に広く分布する密度の高い線状痕という特徴的な使用痕に着目し、その分布の北限を把握するため九州内の細石刃使用痕分析を行った。 分析は、前年度に引き続き熊本県・大分県・長崎県出土資料について使用痕分析を行った。合計の分析資料は九州内92遺跡(鹿児島31遺跡、宮崎18遺跡、熊本6遺跡、大分8遺跡、福岡11遺跡、佐賀7遺跡、長崎11遺跡)の出土細石刃15000点を超える。分析の結果、南九州に特徴的な使用痕をもつ細石刃の主な分布は、ほぼ九州山地以南であることが判明した。分布の中心は高隈山地・鹿児島湾西岸・北薩エリアの鹿児島湾奥部周辺であり、出土数や線状痕の量・密集度ともに顕著である。分布北限付近の人吉盆地や五ヶ瀬川周辺になると、特徴的な線状痕をもつ細石刃の点数も少なくなり、線状痕の密度も低くなる。 また、西北九州においても、南九州特有の使用痕を有する細石刃がごく少数であるが認められた。石器素材となる石材について、西北九州の石材は南九州に搬入される一方、南九州産石材は主に在地でのみ消費される傾向があるが、西北九州では南九州の石材も少数出土している状況がある。南九州特有の使用痕を有する細石刃が少数みられることは、こうした石材などを介した集団の複雑で活発な活動の一端を示している。
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