平成24~26年度の研究計画の内、前半に関しては、日本国内及び国外の青銅製後装砲資料の実測図作成と金属サンプルの採取及びサンプルからの鉛同位体比分析及び蛍光X線分析を実施した。調査過程における新発見資料に関しても随時追加交渉及び調査分析をおこなった。特に、ベルギー軍事博物館の藤堂高虎の大砲や、フランス軍事博物館の佐竹義宣のものと考えられる大砲は、確認点数の少ない和製砲の発見の中でも重要な発見となった。また、初年度には、大友宗麟のものとされる大砲の調査成果をロシア砲兵博物館主催の国際会議にて発表する等、研究成果の発表に関しても必要に応じておこなった。最終年度には、過去2年間に世界中で実施した大砲実測図の製図をおこない、編年図の作成等、型式学的な検討を年度前半におこなった。また、金属サンプルの成分分析データ及び鉛同位体比法に基づく産地同定データの整理も合わせておこなった。 大砲伝来に関する概説的な論文に関しては、2014年10月に思文閣出版より出版された『大航海時代の日本と金属交易』の中に「大砲伝来」を発表している。また、研究期間内に著した火器関係の論文等の専門性を高めた改訂版論文を編纂した形で報告書の作成をおこなった。 研究成果としては、和製後装砲のルーツに関して、型式学的・紋様学的に西洋からダイレクトに日本へ火器が受容された訳ではなく、当時南蛮と呼ばれた東南アジアのイスラム世界が重要な技術的経由地であった事が把握され、くしくもその考古学的成果を指示する理化学的データが得られ、裏付けられたことが挙げられる。また、資源論的観点を通した化学分析データの解釈から、16~17世紀初頭においては、西洋製の大砲には西洋産の銅が、南蛮製の大砲には華南産の銅が、和製大砲は国産銅から華南産銅へと変化することが判明した点は、金属資源流通における世界システム論的考察に重要な観点を導き出せた。
|