研究課題/領域番号 |
24720368
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
川畑 純 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (60620911)
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キーワード | 考古学 |
研究概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、関連文献の収集とそれに基づくデータの整理をおこなった。昨年度・本年度の作業により、甲冑編年の再構築のために注目するべき視点について目途を立てていたが、関連文献と各種データの収集により、それら編年の再構築のために、新たに実際に資料を実見・調査することで収集が必要なデータについても目途を立てることができた。 これらのデータの収集による特に大きな成果として、甲冑編年の基礎となる系統の分類に関して重要な発見に至ることができたと考えている。この発見により、本研究での検討対象の中心を占める短甲について、編年の前提としての系統区分が確定したといえる。系統分類が確定することにより、短甲の生産の様相などについても迫る道筋が立てられたが、本研究の主眼である甲冑編年においては系統区分はあくまで前提作業であり、今後詳細なデータを整理していくことで、分析を進める必要がある。 また、特に先行して検討が必要と考えられる重要資料については資料調査をおこなった。具体的には宮崎県下北方5号地下式横穴墓出土短甲や京都府宇治二子山北古墳、宇治二子山南古墳出土甲冑類の資料調査を進めたが、これにより、同一古墳から出土した複数の甲冑にどのような履歴の差異や扱いの違いがあるのかについて検討するための基礎資料を得ることができた。 今後は昨年度の資料収集や資料調査で得られたデータ・資料を基にして、より効率的な資料調査を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究におけるもっとも重要な基礎作業である古墳時代中期の甲冑編年の再構築においては、これまでには地板の形態以外に導入されることは導入されることがなかった系統差を明確に抽出したうえで、それら系統内での変遷を明らかにする必要がある。なぜならば、異なる系統の資料を同一の編年組列に組み込むことは方法論上正しいとはいえないためである。 現在までに、改めて資料を実見・検討することでデータを取得する必要がある資料の調査は当初想定していたほど進展しておらず、今後資料の実見を進めていく必要がある。その一方で、本年度の作業により、短甲が持つ種々の要素に一定のまとまりを見出すことが可能なことが判明したため、短甲の系統の抽出作業においては大きく進展したといえる。 これまで漠然と提示されてきたデータが少ない資料から優先的に資料調査を進めてきたが、上記の理由により、系統差をより一層明確に抽出するために実見をする必要がある資料が判明するなど、今後効率的に実見調査を進めていくための指針を得ることが出来た。 以上の点を総合するならば、資料の調査自体は決して順調に進んでいるとはいえないが、研究全体を進める上での重要な知見を得ることが出来ている点、また、それにより資料調査の方針を明確にでき、本年度以降より効率的な資料調査を進めることが可能になった点から、調査研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの調査により、本研究の重要な基礎作業である甲冑編年の再構築の前提作業である短甲の系統の抽出作業においては大きく分析が進んでいる。今後はその成果に基づいて、引き続き資料の実見・検討を進め、さらに基礎資料を充実させることで、系統認定の確度を上げ、編年指標についてのデータを集積する必要がある。 以上の点から、本年度は昨年度までにも増して資料の実見・検討を中心に作業を進める。特に、大阪府黒姫山古墳出土短甲や滋賀県新開1号墳出土短甲など、同一古墳から多数の短甲が出土した例についても積極的に実見を進め、本研究の最終的な目的である短甲の履歴の違いと副葬時の扱いの違いについての基礎的な情報の収集を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は本務に年度当初に想定していなかった発掘調査が多数入るなど、自身の研究を遂行するための時間が一部減少することになった。そのため、本研究での主要な作業を日数のかかる各地での資料調査から文献や資料の収集、データ入力・管理といった作業を中心に進めることとした。 その結果として、旅費を中心に当初予定よりも予算が執行できないこととなった。 次年度には、前年度に予定していたが遂行できなかった資料調査をおこなう予定である。特に、宮崎県立博物館や宮崎県西都原考古博物館所蔵資料や、群馬県立博物館所蔵資料といった、比較的遠方の資料についても積極的に調査をおこないたいと考えており、旅費を中心に多くの予算を使用することになると考えている。
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