研究課題/領域番号 |
24720368
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
川畑 純 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (60620911)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 考古学 / 武器 / 武具 |
研究実績の概要 |
本年度は古墳出土鉄製甲冑の基礎的なデータ収集をおこない、柏市教育委員会、えびの市教育委員会、岩戸山資料館、九州国立博物館等において各地出土の鉄製甲冑の調査・検討をおこなった。調査に際しては、写真撮影・調書の作成等をおこなった。特に、実見調査が可能であった短甲の調査に際しては開閉構造の解明、部材の内面形態の確認、各部材の大きさの計測等をおこない、製作技法や製作系統を解明するためのデータを収集した。 これまでの作業により、鉄製甲冑の系統性や型式学的編年を構築するための基礎的なデータを大きく収集することができた。ただし、当初計画と比較して各地で所蔵されている資料の実見はやや遅れており、平成27年度には当初予定を上回る形での追加の資料調査が必要となっている。 そうした状況ではあるものの、甲冑の開閉構造や覆輪技法といった細部技法と、地板の配置や構造・部材の大きさといった種々の属性に高い相関性があることが明らかとなりつつあり、これらの諸属性のまとまりは甲冑の製作系統の違いを示すものと考える。また、こうして弁別が可能となった各系統が各地の古墳群といったまとまりにおいてもある程度有意な集積をみせることが明らかになりつつある。これにより、甲冑の流通において、生産系統の差という履歴の差が大きな意味を持っていたとの予察を得ることができた。 以上のように、甲冑の製作系統の違いといった「履歴」の差が、流通法式や各地域との関係といった「扱い」の違いと関連することが明らかになりつつあるなど、本研究で設定した研究課題に接近しつつある。古墳時代における器物の生産と流通を起点とした有力者間関係を考えるうえでの重要なデータの一つを得ることができる下準備が整いつつあるといえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに継続してきた調査により、鉄製甲冑の製作系統やその集積状況についてはかなり明確な傾向を抽出できつつある。本研究の大目標を達成する上ではかなり良好な見通しを得ていると考える。 ただし、その前提となる基礎情報の収集においては、各地で所蔵されている資料の実見・調査が予定よりもやや遅れ気味であり、追加の調査が大きく必要とされる。それにより、基礎作業としての編年の構築を確立する必要がある。 以上の二点を合わせて区分(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の大目標を達成するための甲冑の製作系統の弁別とその各地域での扱いの様相の解明についてはかなり順調に進んでおり、今後も継続的に作業を進める。 一方で、資料の実見・観察による基礎的な情報の収集についてはやや遅れており、基礎作業としての編年の構築にも影響を与えている。今後はそれらの遅れを取り戻すために資料の調査を積極的に進めていく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は4月段階での本務の年間スケジュールが夏段階で部局全体で大きく変更になり、発掘調査への対応が当初予定と異なるタイミングで大きく入ることになった。また、その業務量も増加したものであったため、当初予定通りの資料の調査等をおこなうことができず、また当該研究へのエフォートも下げざるを得ない結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度で計画していた資料の調査を次年度におこなうことで、次年度での使用を計画している。
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