本研究ではまず、日本の一級水系109流域を対象とし、流域の水需給を定量的に把握しうる指標に関するデータを収集し、データベースを構築した。具体的には、降水量、人口、製造業事業所数、土地利用のデータを流域ごとに集計した。それらによって、109流域の水需給ポテンシャルを定量的・相対的に比較分析した。その際1980年代と2000年代のデータを用いて時系列的な観点からも考察した。その結果、流域特性や水需給比には明確な地域性があり、流域の水需給ポテンシャルを規定する地域的背景にはいくつかのパターンがあることが明らかとなった。これらの成果は、学術雑誌に論文として公表するとともに、ホームページでも公開している。 次に、上記の分析によって抽出された、水需給ポテンシャルからみて相対的に水需要の多い流域として、広島県東部の芦田川流域を取り上げ、とくに下流の福山市に着目しながら、流域スケールでの水需給の地域特性と水需要の時系列的変化を明らかにし、渇水時の対応策も含めた持続的な水利システムについて考察した。その結果、主な支流や上流域の支流なども農業用水源として利用されているが、特定水利権も含めると芦田川本流への依存度が高いこと、最下流の都市用水としての福山市上水道は、かつてより利水安定度が増したとはいえダムへの依存度が高いこと、一方で、福山市上水道を含む下流域の利水者は、地下水などのローカルな水資源を補完的に活用するなどの工夫をしていることが明らかとなった。この成果は、日本地理学会の学術大会で発表した。今後、学術雑誌に論文として投稿する予定である。 また、本研究課題での成果も含めて、都市の水環境や流域の水需給に関するこれまでの研究成果を、書籍「水環境問題の地域的諸相」として出版した。
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