研究課題/領域番号 |
24720372
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 努 東京大学, 総合文化研究科, 学術研究員 (00572504)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 情報技術 / 地域医療 / 韓国 / 台湾 / 長崎県 / 北海道道南地域 |
研究概要 |
本研究の目的は,情報技術の活用による地域医療の再編過程を一般化することである。そのために,韓国と台湾の地域医療を比較分析することによって,医療制度の普遍的要因と地域固有の要因を区別し,日本の地域医療を相対化するとともに,情報技術を活用した地域医療の再編過程における理論化を目指す。以上を踏まえ,以下の2点を軸とした研究を遂行した。 ①日本の医療供給体制における施設間連携に関する事例分析 ②韓国・台湾の医療制度改革における情報化の活用に関する実態把握 ①では,地域医療連携におけるICTの利用状況を把握し,ICTの利用によって,医療供給体制がどのように再編成されつつあるのか考察した。そのためにICTを活用することによって,市町村,二次医療圏などといった地理的境界,医療,介護といった職種の境界を超えて診療情報を共有する地域医療連携の普及メカニズムを検証した。日本における地域医療連携システムは,システムごとにデータの共有方式や参加者の範囲などに相違がみられるとともに,一部の地域に偏在している。そこで,地域医療連携システムが先駆的に普及した事例として評価される北海道道南地域と長崎県を対象に,その成功要因を明らかにするとともに,ICTの普及に地域差が生じるメカニズムを考察した。 ②では, 韓国と台湾における医療制度改革を対象に,情報技術が地域医療の再編成に果たした事例を選定するための基礎資料を作成した。韓国と台湾における医療環境の特性を既存統計によって把握するとともに,各国の事情に詳しい研究者やシンクタンク等実務者へのヒアリングを通じて明らかにすることで,国際比較の実態調査に向けた事前調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内の複数の先進事例地域において,フィールド調査を実施したことによって,本研究が目指す理論化に欠かせない基礎的データを収集することができた。また,国外では韓国と台湾において,複数の先進事例地域を選定するにあたって,必要な基礎的データを現地の事情に詳しい研究者やシンクタンク等実務者へのヒアリングを通じて明らかにすることができた。以上の成果は次年度に向けた詳細なフィールド調査に向けて不可欠な作業過程であり,交付申請書に記載した「研究の目的」をおおむね達成したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
事例の主体を対象とするヒアリング調査を通じて定性的,定量的データを収集する。特に,地域医療の再編過程において情報技術がいかなる役割を果たしているか,多様な地域的文脈から明らかにする。被調査者へのヒアリングを実施するため,私的な研究会や関係団体の交友関係に基づいて被調査者にアクセスする。一連の分析で得られた成果は,国際比較を含めて,日本の実態調査の考察を研究成果として国内外の学会発表に加え,学術雑誌に投稿する。具体的には以下の2点を軸とした研究を遂行する。 ①日本の情報技術を活用した地域医療の再編成に関する分析と展望 ②韓国・台湾の医療制度改革における情報化の活用に関する事例分析 ①では,平成24年度に把握した各事例を詳細に分析するとともに,同事例を地域医療の再編成において位置づける。そうして得られた研究成果は学会発表に加えて,学術雑誌に投稿する。②では,韓国と台湾における先進的事例にかかわる各医療供給主体に対するヒアリングを通じて,それらの行動分析と既存の統計データとを結びつける。当該国においては,国民すべての医療データを電子化する取り組みが進展している。国策としての強力なリーダーシップによって,レセプトの電子化とオンライン請求が普及し,医療機関は規模に関係なく情報技術を活用している。そこで,調査対象国において,当該国の医療供給主体の情報技術の活用実態を把握する。 これまでの一連の分析で得られた成果は,国際比較を含めて,日本の実態調査の考察を研究成果として国内外の学会発表に加え,学術雑誌に投稿する。ここでは,研究成果を総括して,国によって異なる情報技術の活用にともなう地域医療の再編成のメカニズムを地理学的な観点からより一般的な理論的枠組みを踏まえて提示する。
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次年度の研究費の使用計画 |
日本の情報技術を活用した地域医療の再編成に関する分析に際して,詳細なフィールド調査が必要なため,調査地(長崎県)までの旅費・交通費を要する。同様に,韓国・台湾の医療制度改革における情報化の活用に関する分析においても,詳細な現地のフィール調査が必要なため,調査地までの旅費・交通費を要する。加えて,統計データや地誌に関する資料・書籍購入費が必要となる。また,アンケート調査を実施する可能性があり,通信費や郵送費を要する予定である。
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