平成24年度に把握した各事例を詳細に分析し,その成果を地域医療の再編成プロセスにおいて位置づけた。ヒアリング調査を通じて定性的,定量的データを収集した。特に,地域医療の再編過程において情報技術がいかなる役割を果たしているか,多様な地域的文脈から明らかにした。被調査者へのヒアリングを実施するため,研究会や関係団体の交友関係に基づいて被調査者にアクセスした。そうして得られた研究成果は学会発表に加えて,学術雑誌に投稿した。 また,台湾における先進的事例にかかわる各医療供給主体に対するヒアリングを通じて,既存の統計データと合わせて医療供給主体の行動を分析した。当該国においては,国民すべての医療データを電子化する取り組みが進展している。国策としての強力なリーダーシップによって,レセプトの電子化とオンライン請求が普及し,医療機関は規模に関係なく情報技術を活用している。また山間や離島など僻地においては,遠隔診断の手段としてクラウド医療情報システムが試験的に運用されている。そこで,調査対象国において,当該国の医療供給主体の情報技術の活用実態を把握した。また,病院や診療所における情報技術の利用状況をウェブサイトやヒアリング,統計資料から分析した。 これまでの一連の分析で得られた成果は,国際比較を含めて,日本の実態調査の考察を研究成果として国際学会で発表した。韓国と台湾の地域医療を比較分析することによって,医療制度の普遍的要因と地域固有の要因を区別し,日本の地域医療を相対化するとともに,情報技術を活用した地域医療の再編過程における理論化を目指した。ここでは,研究成果を総括して,国によって異なる情報技術の活用にともなう地域医療の再編成のメカニズムを地理学的な観点から提示した。
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