本年度は,昨年度に引き続き,未公開あるいは未整理のデータを整理した。その上で,既存研究を精査し,既に得られた調査情報と照らし合わせて,いくつかの研究報告を行った。 データ整理としては,「広技苑2011年版」に掲載のゲーム会社データを元に,その参入退出数を算出した。それによって,約四半世紀にわたる日本のゲーム会社数の推移が明らかとなり,地方においてゲーム会社が減少したと思われる時期が明確になった。 このデータも踏まえて,コンテンツ企業が地方に展開する理由としては,東京を中心とした現在の産業構造に弊害が顕著になったことが指摘できる。既存研究では,産業集積のロックイン効果を避けるために,外部から知識を取り入れることが重要であるとされている。しかし,たとえ新しい有効な知識を外部から獲得できても,その集積内の企業全ての利害関係が一致しているとは限らないため,その知識を活用できるかどうかは別問題である。既存研究は,この認識が不十分である。 特にコンテンツ産業のように,文化性と経済性という二面性を持ち,前者を代表する企業群は後者を代表する企業群に対して,力関係が不利であることが多い場合には,産業集積内の利害対立が明白になりやすい。その結果,前者を実現するために肝要な知識が得られても,それを実施することが現実的に難しい場合が多い。そこで,東京の産業集積から物理的に距離を取ることで,ロックインを逃れる企業行動が見られるのである。ただし,地方立地した企業にとっても,メディアの中心地たる集積地域は重要であり,そことの関係を断ち切っているわけではない。必要と分かっていても,集積内では実現が難しい様々な施策を地方で実施し,それによって獲得した企業競争力を,集積内での競争に生かしているのである。 このように,既存理論に欠けていた認識を,実証から明らかにしたことが,本研究の成果である。
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