本研究では、英国における代理懐胎の実態を解明することを目的とし、文献調査および現地調査を実施した。その結果、主に以下の点が明らかとなった。 英国では、代理懐胎自体は禁止されていないが、営利目的の代理懐胎を禁止しされている。このため、国内で行われる代理懐胎はごく小数に留まっている。代理懐胎を通じて子を持つことを望むカップルの多くは、国外で代理懐胎を依頼している。英国の司法は、こうした事態を把握し、さっらに、代理懐胎の依頼者と代理母のあいだに「合理的な補償」の範囲を超えた金銭の授受がなされていることを認識しつつも、実際には、子の福祉を保護するという名目のもとに、代理懐胎の依頼者が生まれた子の親となることを認める判断を下すようになっている。すなわち、英国の司法は、事実上、海外での商業的代理懐胎を容認している。 こうした状況のなかで、英国内では、海外での代理懐胎を仲介・斡旋する業者が多数活動するようになっている。本研究における現地調査の結果明らかとなった興味深い事実は、こうした代理懐胎の仲介・斡旋サービスを依頼する人々の多くが、自身も代理懐胎を通じて親となった経験をもっているゲイであることである。彼らは、生殖ツーリズムという新たなビジネスに携わる「起業家」でもあるが、同時に、彼らにとって、ゲイとして親になることの先駆者として、他のゲイ・カップルにケアやサポートを提供することも、代理懐胎の仲介・斡旋に携わることへの大きな動機となっている。 このように、「搾取」と「解放」という両義性をもつ商業的代理懐胎が、「商業的な契約」や「ビジネス」と「ケア」や「サポート」という二重性をもつ活動を通じて広がっているという錯綜した事態を明らかにしたことが本研究の主な成果である。
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