本年度は、アフリカ系アメリカ人の社会運動にみられる軍事的性格と成員の階級に着目し、社会運動が標榜する主義主張、運動の実践形態と軍事的性格や成員の階級の間にどのような関係がみられるのかに関して研究に取り組んだ。 まず、ブラック・パンサーBlack Panther Party for Self Defenseを取り上げた。ブラック・パンサーは、ブラック・モスレムBlack Muslimの経験を踏まえつつ、20世紀半ばに絶頂を迎えた公民権運動と同時進行するなかで展開された社会運動である。次に、ブラック・パンサーに続き、1960年代後半に、複数のアフリカ系アメリカ人の社会運動の流れを受けて結成されたオリシャ崇拝運動に注目した。そして、二つの社会運動に通底する軍事的性格(暴力性および非暴力性)と成員の階級(階級意識)はどのようなものか、またその軍事的性格や成員の階級は時代とともにいかに変化したのかを考察した。 より具体的には、オリシャ崇拝運動の変容、すなわち、運動がいったん衰退した後の展開に着目したそして、社会運動にみられる軍事的性格が、黒人分離主義の理念(国家内国家の建設)、運動における女性の地位、男性覇権主義的な価値観、国家権力とその暴力の捉え方などとどのような関係にあるのかを検討した。 まとめとして、一つに、社会運動が、軍事的性格に依存することは、二元論的価値観を導くということ、いま一つに、軍事的性格と白人中産階級男性を規範とした男らしさが女性成員を抑圧してしまうということが示された。軍事的性格と白人中産階級男性を規範とした男らしさを獲得することに依拠した社会運動、すなわち近代以降のナショナリズムの手法に則った運動の可能性と限界が明らかになった。
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