研究課題/領域番号 |
24720391
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
越智 郁乃 福井大学, 産学官連携本部, 機関研究員 (10624215)
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キーワード | 開発 / 現代沖縄 / 墓制 / エージェンシー |
研究概要 |
本研究では、重層的な権力構造の基で行われる現代沖縄の開発の中で墓地開発をとりあげ、墓をめぐる環境の変化と宗教実践の相互作用について考察する。具体的には、新規に墓に用いられるモノの物質性が人々の宗教実践に及ぼす変化について明らかにすることで、人と墓が作用し合いネットワークを構築する過程や構造を明らかにする。これまでの社会学や家族史の観点から墓を取り上げた研究は、自然葬など墓のオルタナティブをもとめることに傾倒し、目の前にある宗教実践を通じた墓と人とのつながりについて看過されている。それに対し、開発やモノの変化というマクロな社会変化、個々の墓をめぐる宗教実践というミクロな様相を同時に捉えている点に本研究の特色がある。 平成25年度は以下の二点に着目し、沖縄県那覇市を中心とした都市部において約3週間の現地調査を行った。 (1)墓をめぐる環境の変化について物質文化と都市社会史的側面からの検討…第二次世界大戦後、沖縄本島都市部における墓がいかに変化してきたか、墓に用いる材質の変化、行政や業者の関与による集合墓地の開発過程を中心に現地調査を行うことで、単なる「伝統の破壊」という側面ではなく、物質文化及び都市社会史的側面から現代沖縄の墓をめぐる環境の変化について再検討した。 (2)墓のエージェンシーに関する調査と考察…(1)を踏まえ、現在都市部における造墓の現状(墓の外観、遺骨の取り扱い、墓地空間の変化による宗教実践への影響)について現地調査を行った。調査による資料を基に、調査対象者が総体として墓にいかに「個性」を持たせ、墓がいかなる行為体として調査対象者に影響を及ぼすかという「人と墓との協働性」について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は「人とモノとのエージェンシー」に関する議論を、墓をめぐる人類学/民俗学的研究枠組みから検討するにあたって、年次を通じて現地調査を行った。沖縄における重層的な権力構造を意識しながら墓地をはじめとした土地の開発に関してより広範な調査を行うことで、多角的な理論的考察の材料を収集することに努めたため、墓地以外の土地利用に関する資料収集と分析に関して当初の予定より時間を要した。さらに、現地調査で得た資料と他地域・他分野の資料と比較するための文献調査と研究会等を通じた理論構築にも時間を費やした。特に、彫刻物や記憶媒体としての墓と芸術作品との類似性を検討することで、より墓というモノの持つエージェンシーについて考察を深めた。 また、上記の理論面の検討と現地調査による資料分析をもとに、現代沖縄の墓制の変容と墓のエージェンシーに関する研究発表を国際学会で行い、研究を進める上で有益な示唆と意見を国内外の研究者から得ることができた。 以上の研究進行状況により当初の計画より時間を費やしたが、その分研究の深化が図れた。そのため、1年を通じて総合的にはおおむね順調に進展したと自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、沖縄以外の現地調査と文献・理論研究を行い比較研究することで、墓をめぐる環境の変化と宗教実践との相互作用に関する学際的研究の視座を構築する。 (1)現地調査:都市部の墓のエージェンシーと比較するために、業者を介さない造墓過程、都市部以外の地域における造墓過程についても同様に調査し、比較分析を行う。対象地としては、沖縄本島北部の国頭村、また県は異なるが同じ琉球列島内にある与論島における墓地開発について各2週間の調査を行い、地域、行政による墓地開発の相違とその影響について比較分析を進める。 (2)文献・理論研究:年次後半は、東アジア諸国社会における同様の事例を検討し、沖縄の場合と比較することを通して墓のエージェンシーに観する新たな学際的視点を打ち出す。最終的にこれまで収集してきた資料と構築してきた理論を交差させ、3年間の研究をまとめる学会での研究報告と論文の執筆を行う。また、福井大学産学連携本部URAと連携したアウトリーチ活動として、一般向けの講演会での講演を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画遂行のため、現地調査を予定している。また、理論的視座の構築を行うための資料収集及び学会、研究会などを通じた情報収集及び意見交換を重ねるため、国内外調査費を計上する必要がある。今年度は最終年度にあたるため、報告書や成果出版物の郵送費等を計上している。 研究計画遂行のため、年次前半に約1か月の現地調査を予定している。また、理論的視座の構築を行うための資料収集及び学会、研究会などを通じた情報収集及び意見交換を重ねるため、年次通じて国内外調査を計画している。今年度は最終年度にあたるため、報告書や成果出版物の郵送費等を計上し、年次後半に使用する。
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