本研究では、重層的な権力構造の基で行われる現代沖縄の開発の中で墓地開発をとりあげ、墓をめぐる環境の変化と宗教実践の相互作用について考察した。具体的には、墓に用いられるモノの物質性が人々の宗教実践に及ぼす影響について検討することで、人と墓が作用し合いネットワークを構築する過程や構造を明らかにすることを目的とした。 最終年度は本務校の異動に伴い勤務規定が変わり、長期の現地調査が大幅に制限されたため、他分野の文献資料を基にした比較研究、及びモノのエージェンシーに関する理論研究にシフトし、成果論文の執筆に注力した。研究は以下の二点を重点的に行った。(1)沖縄における重層的な権力構造の下で行われる墓地開発についてより考察を深めるために、軍用地接収や跡地開発に伴う生活拠点や墓地を含む祖先祭祀空間の移動に注目した。昨年度調査して得た一次資料について歴史研究と比較しながら分析し、成果論文を執筆した。(2)従来モニュメントとして捉えられることが多かった墓に対して、エージェンシーあるいはアクタント(行為体)としての墓について考察を深めるために、墓同様に場所の記録を含み込む造形物などの芸術作品との類似性を検討した。
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