研究課題/領域番号 |
24720403
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
相島 葉月 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 外来研究員 (40622171)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エジプト / 社会人類学 / 中流層 / モダニティ / 空手道 / 教養 / 様式美 / 身体文化 |
研究実績の概要 |
平成26年度の目標は昨年度に引き続きエジプトにおける空手道の実践を都市中流層の階級意識に関連付けて考察することであった。春と冬にカイロに2週間ほど度滞在し、若者文化やスポーツに関する大衆紙を収集するともに、空手道の稽古場や競技会を訪問し、指導者、競技者及び父兄への聞き取り調査を行った。社会理論においてスポーツ実践は「余暇」として捉えられるが、エジプトの中流層出身の空手家はスポーツと「楽しみ」を結びつけることを嫌う傾向にある。エアロビクスやウエイトリフティングなどは体を鍛えるために有意義な行為であるが、試合での勝利やメダルの獲得を目指したスポーツとは異なるという点を強調する。通常の稽古と比べ、試合対する真剣さや勝利への執着心の強さに驚かされた。空手家やコーチの家庭を訪問したり、フェイスブックに掲載された写真を閲覧したりする過程で、試合で獲得したメダルやトロフィーはもちろんのこと、講習会の参加証や写真までも中流層的な階級意識を保つために重要な意義をもつことが明らかになった。試合への真剣な取り組みを見ていると、スポーツが実利的な利益をもたらすことは考えにくいとは言え、中流層の「余暇」として分析することに違和感を覚えた。 今年度の調査から空手道を中流層の文化実践と結びつける手がかりが見つかりつつある。1970年代に日刊紙・アル=アフラームが空手について報道し始めた際に、スポーツ面ではなく、文化面に記事を掲載した。文化面には芸術や文学だけでなく、宗教やスポーツに関するニュースも含まれていた。今年度は「文化」と結びつくあらゆる施設で行われている空手教室を訪問した。中流層が教養を身に着ける機会を提供するために1950年代より建設された青少年センター(マルカズ・シャバーブ)だけでなく、図書館の閲覧室や金曜礼拝向けモスクの庭においても空手の稽古が行われ、多くの子供や父兄でにぎわっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①都市中流層の教養としてのスポーツ実践:昨年度に引き続き中流層の集う空手教室を求めて調査を行った。これまでの調査では子供向けの教室しか見つからなかったため、主に父兄か指導者を対象にインタビューを行った。しかし、12月末にカイロを訪問した際に大人向け(高校生~20代)の稽古も行う空手専門の道場を見つけることができた。来年度はこの道場を中心に隣地調査を行いたい。 ②中東・アフリカ地域における日本文化の受容:1970~80年代に空手道を始めたエジプト人は空手道が日本発祥のスポーツであること認識している一方で、10代の若者の場合は「下段払い」や「前蹴り」などの技の名前が日本語だとさえ知らないことも多々あることが分かってきた。手本となる空手家は日本ではなく、空手の強豪国であるイタリアやドイツにいると認識しているため、元世界チャンピオンのLuca Valdesi (イタリア人)にちなみ自らをSalah Valdesiと呼ぶ者もいる。30代の空手指導者にインタビューした際に、空手は日本から来たかも知れないが、現在では「エジプト化」したのだと言ったのが印象深い。来年度は空手の「エジプト化」を文化ナショナリズムに関連付けて考察していきたい。 ③エジプトのスポーツ雑誌の収集と分析:エジプト伝統空手道協会の前身の団体が発行していたDifa‘ ‘an al-Nafs(自己防衛、保身術)という雑誌を入手することができた。色々な格闘技を紹介する一方で、空手の技や形を写真付きで細かく説明している。来年度はこの雑誌の分析を進めたい。 ④オルタナティブ・モダニティとしての空手実践:空手道をモダニティの実践として分析する糸口が見つかりつつある。エジプト伝統空手道協会に所属する空手家の主張する「伝統」と「近代」に着目した調査を進めている。伝統に戻ることを強調する一方で、最先端の技や形の解釈が生まれると考えているようである。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度はより質の高いデータを収集すべく、これまでよりも長期の臨地調査を行いたい。これまでと同様に空手実践における「楽しさ」の位置づけと中流層的倫理観の関係性について解明すべく、文献研究と臨地調査の両面から本研究課題を進めていく方針である。 ①平成27年度は9月中旬~11月にかけてエジプトでの臨地調査を行う予定である。大人向けの稽古を行う道場の稽古を訪問し、形を専門とする選手と指導者への聞き取り調査を行いたいと考えている。また若者向けの雑誌やスポーツ紙の収集を引き続き行いたい。 ②本研究プロジェクトの成果を単著にまとめるべく、学術出版社に提案書を送り、出版契約を結びたい。 ③2015年6月10~12日に英・カーディフ大学で開催される第1回格闘技研究学会の年次大会に出席し、研究の傾向を概観する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年3月に実施を予定してた調査が行えなかったため残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年9月に行う海外旅費に充てる。
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