研究課題
平成27年度も引き続き、エジプトの空手実践における「楽しさ」の位置づけと中流層的倫理観の関係性について解明すべく隣地調査と文献研究の両面から本研究課題を進めた。今年度はこれまでよりも長い期間(10月8日~12月22日)カイロに滞在したため、空手家コミュニティの人々とより深い絆を築くことができた。大カイロ市中心部の中流層の住宅街に位置する公営スポーツクラブで開設された大人の初心者向けの空手教室に参加する一方で、郊外の新興住宅街における子供向け教室(3~16歳)の補助教員を務めた。エジプトでは運動が好きか否かに関わらず、多くの人がスポーツクラブに所属している。20世紀末よりムバーラク政府が新自由主義的な公共政策を進め、貧富の差が拡大した結果、どのクラブの会員かということと社会階層意識の関連性がより一層強まったように思える。今回の調査で訪問したクラブの会員は中流層の出身者が多いのに対し、空手の選手は下中流から上流と多様であった。競技会で優秀な成績を残した者は無償でスポーツクラブに所属して稽古に取り組むことができ、遠征費用等の援助を受けることができる。高額なクラブの会費を払うことが難しい階層の出身者にとっては非常に魅力的な制度であることが確認できた。競技者と指導者の両面から空手教室に関わることで、空手道の指導者として活動する経済的な利点や難点を考察できた。今年度の調査から、本課題の申請書を作成していた2011年と現在ではエジプトの政治情勢は大きく変わり、中流層出身の若者の多くは確固たる未来が描けない状況にあることが痛感できた。今後は中流層らしくあろうとする若い空手家が抱く野望や彼らが直面する問題に焦点をあてた研究を行いたい。
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Al Yaban
巻: 302 ページ: 12
Die Welt des Islams
巻: 56 ページ: 34-54
10.1163/15700607-00561p04
Young Muslims, 9/11 Generation?
巻: 1 ページ: 105-122