研究課題/領域番号 |
24730001
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
徐 行 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (30580005)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 中国法 / 比較法 / 市民参加 |
研究概要 |
現代中国の「法化社会」の形成過程における市民参加の現状とその背後にある法的・政治的要因を解明し、いわゆる「中国的特色」を有する「直接参加型民主主義」が中国社会にいかなる変化をもたらしているのかを明らかにすることは本研究の目的である。 そこで、本年度は主に2004年に改革が行われた「人民陪審員制度」(参審制度)に関する規定の内容、制度改革の背後にある議論(学説と法院の公式見解等を含む)、及び基層人民法院(裁判所)における当該制度の運用の実態に関する資料収集とヒアリング調査を行った。その結果、従来、あまり積極的に運用されてこなかった「人民陪審員制度」は、近年とてつもない勢いで積極的に運用されるようになったことが明らかになった。例えば、上海市の五つの基礎法院(虹口区、普陀区、金山区、奉賢区、徐匯区)における人民陪審員の定員が裁判官の定員に近づいていて、常勤の人民陪審員さえ存在している。そして、民事・刑事・行政事件を含む各種事件の裁判に於ける「参審率」も向上し続けており、一部の法院で100%に達する例も現れた。中国共産党政権が司法における市民参加の推進に力を入れていることが窺える。 議会民主制の導入を頑なに拒み続けてきた共産党が、直接民主制の導入と運用を通じて、政権の正統性を調達・確保しようとしているが、司法の分野における試みはまさに人民陪審員制度である。「人民」による参加を通じて、判決の説得力を向上させ、法院ひいては司法全体の権威を高め、最終的には司法権とも緊密に関連している共産党に対する信頼を高めることが当該制度の背後に見え隠れしている。しかしながら、実際に人民陪審員になれる一般市民が限られていて、共産党員や共産党に同調する民主党派のメンバー、とりわけ政府機関の構成員が人民陪審員として活動しているところをみる限り、人民陪審員が本当に人民を代表できるかという大きな疑問が残る。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は立法と司法における市民参加の実態に関する資料収集、効率よく聞き取り調査を展開するためのネットワークの構築(予備的なアンケート調査を含む)、及び研究の作業環境の整備に重点を置いている。 関連論文と書籍の収集を中心とする資料収集は、予定通り進んでいる。特に、CNKIというオンラインデータベースをフルに活用し、中国語の関連論文を収集した。また、現地調査の度に地元の本屋を利用して、必要な書籍を購入した。 必要な機材の購入(パソコンとプリンター)も完了していて、収集した資料の整理作業を順調に遂行している。また、中国の学者・実務家との間の国際交流を通じて、人的ネットワークの構築も進んでおり、それを利用して、現地調査の条件を整えた。なお、中国における市民組織(NGO・NPO)に対する調査、及び人民法院に対する調査は以前から行っていたため、本年度のヒアリング調査も比較的に順調に進められた。 ただし、立法(特に地方立法)における市民参加の現状に関する調査を行うための準備作業に多少の遅れが出ている。地方の人民代表大会が外国からの学者による調査に対して慎重な対応が要求されていて、特に日中間の関係がうまくいっていない時期において、日本からの調査要求に対する結論が出されるまで、時間がかかると思われる。人的ネットワークを利用して、引き続き調査対象となる地方の人民代表大会に働きかける予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
予定通り、前年度の予備調査やアンケート調査の結果を踏まえて、調査対象を拡大し、特に市民参加の効果を検証するための裏付け調査を中心に現地調査を行う。また、現地調査を機に、新しい資料の追加収集を行う。 そして、前年度に引き続き、資料の整理と分析を行う。デジタル化されたネット上の事例と既存のデータベースを利用し、現地調査の成果をも取り入れて、特定のサンプルについて、立法における市民の意見の反映の情況や人民陪審員の意見の判決結果に対する影響を明らかにする(文書資料にもとづく統計の結果をまとめる)。 現地調査の具体的な計画は以下の通りである。中国に計4週間滞在し、北京を中心に各地の弁護士事務所、弁護士に紹介していただいく当事者、北京市・上海市・吉林省長春市・広東省広州市・湖北省武漢市・内モンゴル自治区フフホト市の人民法院、および上海市・長春市・武漢市・南京市の人民代表大会における地方立法の担当部門を訪問し、司法と地方立法における市民参加の状況に関する聞き取り調査を行う。特に法院における調査を円滑に行うために、最高法院の裁判官から紹介状をいただく予定である。聞き取り調査で想定した成果を達成できない場合、または、補足調査を行う必要がある場合、中国国内における研究者である北京大学の王錫シン(金へんに辛)教授、南京大学の呉英姿教授、国家法官学院の呂芳教授を訪問し、意見交換とインタビューを行う。そして、「影響性訴訟」については、最大の推進者で研究の第一人者でもある呉革弁護士を対象に、ヒアリング調査を行う予定である。 さらに、中国における人民陪審員制度について、比較法学会で報告を行い、参加者と意見交換を行う。成果をまとめて、年度内に論文として公表する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
24年度の資料収集は中国関連の論文に重点を置いていて、収集した資料の整理と分析に時間を費やしたため、比較の対象となる日本関連の資料、特に行政立法におけるパブリックコメントに関する資料を収集・整理・分析するのに計上した予算が未使用のまま残された。25年度は上記日本関連の資料を収集・整理・分析するために当該予算を使用する予定である。
|