研究課題/領域番号 |
24730001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
徐 行 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 講師 (30580005)
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キーワード | 中国法 / 比較法 / 市民参加 |
研究概要 |
現代中国の「法化社会」の形成過程における市民参加の現状とその背後にある法的・政治的要因を解明するために、本年度は引き続き2004年の改革後の「人民参審員制度」に関する資料収集・分析とヒアリング調査を行った。また、当該制度の運用実態をより正確に把握するために、上海市、浙江省、広東省の20以上の基層法院で人民参審員が参加する第1審の裁判を傍聴した。 その結果、改革によって人民参審員制度が積極的に運用されるようになったことを再確認できたほか、「人民参審員の広範的な代表性を確保することで、人民大衆による司法参加の権利を保障し、(直接民主制を通じて)民主的な正統性を獲得」するという改革の目標はほとんど達成できないという問題点も明らかになった。選出された参審員の大部分が共産党員か党関係者であること、実際に裁判に参加している参審員の多くが「常勤」の参審員で法院と密接な関係を持っていること、裁判では参審員がほとんど発言せず裁判と無関係のことをするケースもよく見られることなど、問題が山積みで、今回の改革が成功しているとはとうてい言えないと思われる。ただし、最高法院はこれらの問題も認識しており、今後改革をさらに推進することで、人民参審員の広範的な代表性を実現しようしている。なお、以上の研究成果の一部は2013年の比較法学会で発表し、「比較法研究」75号で論文として公表した。 また、本年度は中国における「直接参加型民主主義」のもう一つのモデルである立法における市民参加の現状に関する資料収集とヒアリング調査も行った。立法における市民参加の主要な方法として、パブリック・コメント、特にインターネット経由の法律草案に対する意見の募集が、中央から地方レベルまで一般的に行われていることが明らかになった。ただし、実際にどれだけの市民が参加し、如何なる成果が得られたのかについて、さらなる検証が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は前年度の予備調査と資料収集の結果を踏まえて、調査の対象を拡大し、市民参加の効果を検証するための裏付け調査を中心に現地調査を行い、必要に応じて資料の追加収集を行うことに重点を置いている。 資料収集に関しては、オンラインデータベースを継続して活用し、論文や事例の収集を順調に進めてきた。必要な書籍の調達も順調に進んでおり、必要に応じて現地調査のときに中国の書籍も購入した。 前年度までに構築した中国の学者・実務家との間の人的ネットワークを利用して、「人民参審員制度」に関するヒアリング調査を計画通りに行った。特に裁判の傍聴は現地の裁判官と弁護士の協力もあって、予定よりも多くの裁判所を訪問し、刑事・民事・行政など各法分野のいろいろなタイプの事件の裁判を傍聴できた。さらに、一部の担当裁判官に直接インタビューすることにも成功した。 また、立法における市民参加の現状に関する調査も一定の成果を得られた。全国人民代表大会の法制工作委員会及び中国国家図書館の「立法政策決定サービス部」のメンバーとの親交を深めたことで、将来の調査に協力するという約束を取り付けた。さらに、実際に法律草案に意見を提出した市民と市民団体に対するヒアリング調査も行った。ただし、地方の各級人民代表大会ははやはり外国からの学者による調査に対して慎重な態度を取っており、日中関係がぎくしゃくしていることも影響して、直接的なヒアリング調査に応じてくれるまでなお時間を要すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り、二つの段階に分けて研究を推進する。基本的には上半期に補充的な調査と資料収集を行い、出来るだけ早い段階で結果の整理と分析を終える。下半期はそれを踏まえて、立法・司法における市民参加の全体像を構築し、中国的特徴を有する直接民主制と法化社会の形成に関する理論的な枠組みの形成を試みる。 「人民参審員制度」に関する資料収集と現地調査は計画通りに進んできたため、本年度はさらなる改革の動向に注目しつつ、特に大きな変化が見られなければ、それに関する調査を最小限にとどめる予定である。地方の人民代表大会が非協力的であるため、立法における市民参加に関する資料収集と現地調査は継続する必要がある。本年度は、調査の重点を市民団体、北京にある全国人民代表大会と中国国家図書館に置く予定である。また、立法における市民参加の全体像を解明するのに、以上の研究と調査ではなお不十分であると思われるため、中国国内の専門家と直接会って、意見交換を行う予定である。 研究の成果は論文にまとめて、下半期に公表する予定である。また、事前にレビューを受け、有識者と意見交換をするために、下半期のアジア法学会や学内の研究会で報告することを想定している。なお、立法における市民参加は、中国共産党政権が直接民主制を通じて正統性を獲得するための試みの一つで、しかも政策決定に直接結びついていて、センシティブな問題として認識されているため、現地調査がうまくいかず、計画通りにその全体像を把握できない可能性もある。その場合、解明された部分を先行的に公表し、下半期に継続調査を行う予定である。
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