現代中国の「法化社会」の形成過程における市民参加の現状とその背後にある法的・政治的要因を解明するには、司法と立法における市民参加の状況を把握し、それぞれについて、分析を行う必要がある。前年度までは、主に「人民参審員制度」に関する調査に重点を置き、司法の分野では、形だけの改革が進められていて、市民参加の度合いが向上しているように見えるが、実質的な変化が見られず、司法における市民参加は依然として多くの問題を抱えており、共産党政権による統治を維持するための道具として利用されていることを明らかにした。本年度でも、当該制度の運用状況を継続して観測してきたが、結論を変えるだけの変化は見られなかった。 そして、立法(特に地方立法)における市民参加の現状に関する資料収集とヒアリング調査は本年度の研究の中心である。中国では、新聞や雑誌、テレビニュース、立法機関・政府のポータルサイトないしソーシャルネットワークを通じて、法律(行政法規や条例を含む)の草案を公布し、社会に対して広く一般に意見徴集を行うというやり方は、立法における市民参加の主要な方法としてすでに定着しているが、地域によっては、それをあまり積極的に推進していないところもある。また、制度として構築されているが、実際の運用においては、市民参加の度合いが低く止まっており、市民側から出された意見が法に反映されることも(ごく一部の例外を除いて)稀である。つまり、立法における市民参加も、結局のところ、表面的かつ形式的なものに過ぎないと言わざるを得ない。議会制民主主義が確立されていない中国では、立法における市民参加も所詮中央に集中した権力の末端を開いて民衆を巻き込んで、一党独裁の正統性を補強するための一手法に過ぎない。なお、以上の研究成果の一部は2014年のアジア法学会で発表し、「アジア法研究2014」(第8号)で論文として公表した。
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