研究課題/領域番号 |
24730004
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
菅原 寧格 北海学園大学, 法学部, 准教授 (20431299)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 法哲学 / 法思想史 / コミュニケーション / ウェーバー / ヤスパース / アレント / ハーバーマス / 熟議民主主義 |
研究概要 |
本年度は、熟議民主主義の前提をなす「コミュニケーション」の理論について、思想史的観点からの検討に重点を置いた研究を進めてきた。その内容を全体としてみると、膨大な量に上る二次文献の収集と整理に努めるとともに、学会等の機会における意見交換を踏まえた上で、ハーバーマスの「コミュニケーション」をめぐる議論を検討し、ウェーバーとヤスパースからアレントへと至る思想の系譜上に位置づけたことになる。 具体的には、本年度前半に、ハーバーマスが多大な影響を受けたことがよく知られているアレントにおける「コミュニケーション的権力」の構造について、これをウェーバーからヤスパースへと至る思想史的連関過程の中で位置づけ直すことによって、その概要を検討し明らかにすることを試みた。 そして後半は、ハーバーマスにおける「コミュニケーション的行為の理論」がどのような思想史的背景を持つものであったかというテーマの下で、前半において進めた研究成果であるアレントの理論を介在させることによって「コミュニケーション」の哲学を唱道したヤスパースとの具体的関係についても掘り下げて検討を進めたことになる。 以上より、本年度に行った研究から得られた成果は本研究の思想的背景を明らかにした点で研究全体の礎に相当するものであり、次年度以降に行うべき課題を明確にした点で今後の研究を効果的に進めて行く上で不可欠なものであったと考えられる。 なお、本年度の研究により獲得した知見の一部は、論文「アレントの「政治理論」における脱「哲学」的志向と「政治哲学」的性格」(竹下賢・長谷川晃・酒匂一郎・河見誠編『法の理論31』(成文堂、2012))としてまとめ、公刊された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究目的は、「コミュニケーション」の概念を規範的に再構成することによって、現代社会で熟議民主主義が成り立つ正当性と正統性の条件を探ることであった。そのための具体策として、本研究では、①討議倫理や現代の「コミュニケーション」理論の唱道者であるハーバーマスと彼に影響を与えた先人の思想とを吟味し、②熟議民主主義の前提である「コミュニケーション」が果たす役割をその思想史的基礎から再構成し、③「コミュニケーション」の規範的意義を明らかにすることにより、上記の課題と取り組むことを目標として掲げた。 そこで本年度は、上記①の目標達成を目指して研究を進めてきたが、この点については当初の計画以上に順調に進めることができたと考えられる。 理由としては、主に次の三点を挙げることができる。第一に、ハーバーマスの「コミュニケーション」理論をウェーバーとヤスパースからアレントへと至る思想の系譜上に位置づけることができただけではなく、そうした見通しを可能としたアレントの思想についても一定の分析を加えて整理し得たことにより、逆にハーバーマスの理論が持つ思想史的背景についても明らかにすることができたと考えられるからである。 また第二に、アレントの理論を介在させることによって、ハーバーマスの議論と「コミュニケーション」の哲学を唱道したヤスパースとの具体的関係についても一定の検討を加えることができたと考えられるからである。 そして第三に、以上の成果の一部については、当初は予定していなかったにもかかわらず、論文「アレントの「政治理論」における脱「哲学」的志向と「政治哲学」的性格」(竹下賢・長谷川晃・酒匂一郎・河見誠編『法の理論31』(成文堂、2012))としてまとめ、発表することができたからである。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の二年目にあたる次年度は、初年度において位置づけた(ウェーバー → ヤスパース)アレント → ハーバーマスへと至る「コミュニケーション」に関する思想を、ドライゼックをはじめとする現代の熟議民主主義論と照合し、規範的概念として再構成することを試みる。また、研究全体の進捗状況を慎重に見極め、年間を通じて柔軟なペース配分を行うよう心がける。 その上で次年度は、本年に整理したアレントとハーバーマスに関する研究を補完し、関連文献の収集と整理を継続するとともに、熟議民主主義の社会で法が果たす役割と意義を確認し、民主的に正統でありながら、なお法的にも正当性を有するような「コミュニケーション」の在り方について、これを構想することに努める。 また、ドイツ・フランクフルト大学やオーストリア・ヤスパース協会に赴き、ハーバーマスやヤスパースとアレントにおける「コミュニケーション」理解の異同や、文献上には現れてこない両者の思想内奥に関するインタヴューを必要に応じて実施するとともに、関連資料の収集も進める。 研究期間の最終年度にあたる次々年度は、前年度までに獲得し得た「コミュニケーション」概念を整理し理論化する作業へと着手する。 具体的内容としては、研究全体のまとめを行うのと同時に、従来のような、裁判を通じて行われるべき実践として理解されてきた「法的コミュニケーション」論の枠組みを超えて、法的に正当でありながら民主政の正統性根拠にもなる「コミュニケーション」の在り方を探究する予定である。そして、日本法哲学会でのワークショップや韓国で開催が予定されている東アジア法哲学会等の国際学会において本研究成果を発表し、学会誌へ投稿し公表することを最終的な目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に続き、物品費として「コミュニケーション」と熟議民主主義をめぐる法哲学関係図書の収集に研究費を充てるほか、法思想史や熟議民主主義論の専門家との意見交換等を行うために出張する国内旅費と、ドイツとオーストリアへの文献調査・資料収集等のために必要な国外旅費として研究費を用いる予定である。 また、消耗品としては、収集した資料を整理・精読していく際に必要な文書保存箱やバインダー・ファイル等の文具の購入、および使用期限を迎えるソフトウェアの更新等を行うために研究費を用いる予定である。
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