研究課題/領域番号 |
24730004
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
菅原 寧格 北海学園大学, 法学部, 准教授 (20431299)
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キーワード | 法哲学 / 法思想史 / コミュニケーション / ウェーバー / ヤスパース / アレント / ハーバーマス / 熟議民主主義 |
研究概要 |
本年度は、前年度の成果を踏まえた上で、引き続き「コミュニケーション」の概念を思想史的に深化させた研究を行った。その狙いは、「熟議民主主義」を支える「コミュニケーション」の意義を伝統的な哲学的思考と関連付けながら、法思想史的にはどのような意義があるのか、そこにはどのような法哲学的意義があるのかを探る点にあった。 具体的には、本年度前半に「熟議民主主義」に関する諸論文の比較検討を重点的に行ったものの、年間を通じては、①現代コミュニケーション理論の思想史的水脈がアレント → ヤスパース → ウェーバーへと遡れることを明らかにした上で、②この「コミュニケーション」の概念とは古典哲学以来の哲学的思考スタイルとは似て非なるものであることを確かめつつ、③それは「哲学すること」として法哲学的に再定位されうることを明らかにしようと試みた。 そこから得られた知見は、「コミュニケーション」を行うことが「哲学すること」との関連から哲学的に根拠づけられたということであり、その意味で本年度の研究は、昨年度の成果を発展させたものであると同時に本研究全体の骨格を成すものとして位置づけられる。また、その結果、「コミュニケーション」を行うことを思想史的観点から表現し直すことの規範的意味が問われることにもなり、本研究の最終年度にあたる次年度に行う研究の重要性が示されるとともに、行うべき課題も明確なものになった。 なお、これらの成果については、その大要を論文「ヤスパースにおける「哲学すること」の法哲学的意義」としてまとめ、大野達司編『社会と主権』(法政大学出版、2014)に収められ、公刊された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、「コミュニケーション」の概念を規範的に再構成することによって、現代社会で熟議民主主義が成り立つ正当性と正統性の条件を探ることであった。そのための具体策として、本研究では、①討議倫理や現代の「コミュニケーション」理論の唱道者であるハーバーマスと彼に影響を与えた先人の思想とを吟味し、②熟議民主主義の前提を成す「コミュニケーション」が果たす役割をその思想史的基礎から再構成することによって、③「コミュニケーション」の規範的意義を明らかにすることにした。 前年度においては①を達成していることから、今年度は②の課題と取り組んだが、おおむね順調に研究を進めることができたと考えている。 その理由は、第一に、前年度に整理したハーバーマスとの思想的連関に基づきアレント → ヤスパース → ウェーバーへと「コミュニケーション」の概念の思想系譜を遡り、それが古典哲学以来の哲学的思考スタイルとは似て非なるものであることを確かめたからである。そしてその上で、第二に、「コミュニケーション」を行うことが「哲学すること」として法哲学的に再定位しうることを示すことができたからである。また、第三に、これら一連の研究は、前年度の研究を補完するものであるが、それに加えて、次年度に予定している本研究全体のまとめを行う際の方向づけを与えるものにもなったからである。 なお、本年度に得られた成果については、その大要を論文「ヤスパースにおける「哲学すること」の法哲学的意義」(大野達司編『社会と主権』(法政大学出版、2014))として公刊された。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の最終年度にあたる今年度は、本研究全体のまとめを行う。これまで検討を進めてきた「コミュニケーション」概念についての規範的意義を明らかにすることがそこでの目的であるが、その際に注目するのは、「熟議」の在り方が論点となる民主主義、すなわち政治的なものを支える「コミュニケーション」の正当性や正統性の根拠をめぐる問題である。 また、そのような政治的なものを支える「コミュニケーション」が、「法の支配」という極めて規範的な法理念との間でどのような関連性を持つことになるのか。次年度はこうした問題と取り組むことによって、研究全体の成果をまとめる。その際、本年度までの成果と次年度の見通しも含めた報告を韓国で開催される第9回東アジア法哲学会で行い、年度末には論文として公刊することを考えている。
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