本研究は、「復讐感情」や「赦し」が正義概念といかなる関係にあるのかについて考察を行うことを主たる目的とする。併せて、法制度を通じて「復讐感情」を昇華させる可能性やそれに伴う問題点について検討を行うことをめざすものである。 最終年度である平成27年度においては、前年度に引き続いて、「復讐感情」が「正義=公平感覚 sense of justice」と密接な関連性を有する点に着目し、国家刑罰権を正当化する上で「復讐感情」はどのような役割を果たすのかという問題について、英米哲学の文献を精読し考察を重ねた。国家刑罰の正当化根拠の一つとされる「応報」は、通常「復讐」とは区別されているが、両者は「正義=公平感覚」の発露という点においては同じであることを確認した上で、国家刑罰を復讐(応報)感情が制度化されたものとして捉える見解について検討を行った。A. スミスやJ. マッキーらの議論を手がかりにして、個人が有する主観的な復讐(応報)感情から出発し国家刑罰という客観的な法制度へと至る過程について考察を行い、国家刑罰としての応報刑を復讐(応報)感情から説明することを試みた。また、個人の主観的な復讐(応報)感情を一般化し、客観的な法制度に取り込むことの限界や問題点についても考究した。 以上の研究成果を、2016年度日本法哲学会学術大会において、統一テーマ「応報の行方」に関連する報告「応報刑と復讐」として発表を行い、それに対して多くの貴重な指摘をいただいた。
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