本研究は、明治前期の下級審における雇用契約訴訟を素材に、幕藩期には「家」の<主人‐奉公人>として身分的要素が濃厚であった雇用契約関係が、西洋近代法の継受によって受けた影響を検討したものである。 具体的には、幕藩期には制禁であった被用者から雇主に対する給金支払請求訴訟と、雇主への従属性が最も強い弟子奉公契約を分析し、契約当事者の意思や「人身ノ自由」を重視する点に西洋法の影響を看取できるとともに、身元保証人の責任や共同体の法意識には幕藩期からの連続性が確認できた。また、明治民法では「家」から排除された奉公人を、「世帯」概念を媒介にして「家」成員に含める学説が1920年代に登場したことを指摘した。
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