研究課題/領域番号 |
24730012
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
黒澤 修一郎 島根大学, 法文学部, 講師 (30615290)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 国際情報交換 / アメリカ合衆国 |
研究概要 |
本研究は、従来の日本の憲法訴訟論においておよそ積極的に評価されてこなかった「動機審査(motive scrutiny)」について、その意義を再検討することを大きな課題とする。ここで「動機審査」とは、とりわけ立法府の政策形成プロセスに焦点を当て、公正で偏見のない見地から法律が制定されたかどうかを裁判所が吟味するという、違憲審査の一方法のことを言う。 この課題研究の進展に向けて、平成24年度は、基礎文献の読み込みに重きを置いた。具体的には、アメリカ憲法学を素材にして、19世紀初頭から今日まで蓄積されてきた「動機審査」に関する判例・学説を精読し、その歴史を正確に理解するべく試みた。なお、19世紀の判例・学説については、本研究開始年度以前にすでにおおよその検討を済ませていたことから、本研究では、とりわけ20世紀以降の判例・学説に関する資料の読み込みを重点的に進めた。 対象となる判例と学説が多岐にわたることから、研究の遂行に当たっては何らかの導きの糸が必要となったが、特にアメリカ憲法史学の業績には、裨益するところが大きかった。この分野の業績に多くを学びながら、「動機審査」の手法が、20世紀初頭の合衆国憲法判例において興隆しながらも、1930年代後半以降は衰退し、そして1970年代以降に再興してゆく道筋を跡づけることができた。 なお、平成24年9月-10月にアメリカ合衆国(ワシントンD.C.およびボストン)へ出張をおこない、調査と資料収集を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は、20世紀の判例・学説に関する研究に重きを置いた。しかしながら、研究対象が広範囲にわたることから、いささか進捗に偏りが生じてしまったと言わなければならない。とりわけ、平成24年度は、憲法史学における業績の読み込みに予想以上に時間がかかってしまった。ゆえに、当初予定していた違憲審査の理論研究についての調査は、やや進展が遅れている。 具体的には、平成24年度の研究実施計画では、20世紀以降の有力な違憲審査理論―大別すれば、①リーガル・リアリズム、②リーガル・プロセス理論、③実体的価値理論、④政治プロセス理論、⑤新制度主義の5つが挙げられる―に関する基礎文献の精読と検討を行う予定であった。とりわけ本研究では①②③に関する調査に重点を置く予定であったが、しかし現実には、平成24年度は、①と②までしか調査を済ませることができなかった。また、諸理論の総合的な再検討や、21世紀以降の新たな理論に関する調査などにも、歩みを進めることができなかった。 しかしながら、かえって憲法史学に重点を置いたことで、アメリカ憲法裁判の歴史や、特定の憲法理論の社会的背景などに関して、新たな知見を得ることができたことは、間違いなく大きな収穫であった。現在、これまでの研究成果を基に、「動機審査」をめぐるアメリカ憲法裁判史を総合的に描き出すという作業をおこなっている最中であり、その上で違憲審査の理論研究にも進んでゆきたいと考えている。 なお、現在までの本研究の一端を示すものとして、平成24年11月に、黒澤修一郎「合衆国判例における『動機審査』・覚書」(憲法理論研究会編『危機的状況と憲法〈憲法理論叢書20〉』[敬文堂]177-192頁)を公表した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、本研究をより充実したかたちで推進してゆくための方策としては、次の3点を挙げることができる。 まず第一に、平成24年度からおこなってきた基礎文献の精読を継続しなければならない。とくに当初の予定よりも遅れている違憲審査制の理論研究を、優先して進めたい。これに関しては、平成25年度の6月末を、関連文献を包括的に読み込み、その全体像を理解するにあたっての目処としたい。なお、これと併行して、新しい違憲審査理論など、アメリカ憲法学の最新の動向もフォローアップできるよう努めたいと考えている。 第二に、平成25年度は、本研究についてほかの憲法研究者からレビューを受ける機会を、積極的に設けたいと考えている。現時点での希望としては、日本国内とアメリカ合衆国で一度ずつ、研究会報告や憲法研究者へのインタビューを実施する予定である。こういったレビューを通じて、新たに得た成果を申請者の従来までの調査にフィードバックし、研究成果をより洗練させたいと考えている。 第三に、平成25年度は本研究の最終年度に当たることから、研究の総仕上げをおこなわなければならない。すなわち、研究成果を論文のかたちにまとめあげた上で、その公表をできる限りで進めたいと考えている。公表の方法としては、北海道大学法学研究科の紀要誌である北大法学論集への長期連載を予定している。目標としては、平成25年の11月末の時点で連載の第一回目の原稿を投稿し、翌年3月に公表できるよう間に合わせたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費使用計画は、以下の通りである。 第一に、アメリカ憲法学に関する文献を収集するために、図書購入費や出張費等を支出しなくてはならない。とりわけ、平成24年度に進捗が遅れてしまった違憲審査理論に関する資料収集のため、東京などの大学図書館に少なくとも1度は足を運ぶ予定である。 第二に、研究のレビューを受けるための支出(旅費等)が必要である。日本国内とアメリカ合衆国に一度ずつの出張を予定しているが、この出張の際には、前述の資料収集についても併行して進めたいと考えている。 第三に、申請者と関心の近い研究者との情報交換のために、各種の学会には積極的に参加するつもりである(日本公法学会など)。そのための出張旅費を、本研究費から支出する予定である。 なお、平成24年度から平成25年度に移行するに際して、約20万円の繰越金が生じているが、これは、申請者の勤務する島根大学から、当初想定していなかった研究資金(「島根大学新規採用教員に対するスタートアップ支援事業」)を頂戴できたことに由来する。それゆえ、ノートPCやレーザープリンタなどの備品費は、本研究費から支出することなくして賄うことができた。その上、旅費や図書費などに関しても、上記の勤務校から受けることができた資金から幾分か支出したため、平成24年度の本研究費に余りが生じてしまった。繰越分の本研究費は、上述したような平成25年度の資料収集および調査のための資金に充てる予定である。
|