研究課題/領域番号 |
24730013
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
米田 雅宏 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (00377376)
|
キーワード | 警察法 / 危険防御 / 補充性原理 / 公私協働 / 多機関連携 / 脱警察化 / 機能的権力分立 |
研究概要 |
1 本研究の2年目は、初年度に引続き日独警察組織・権限法に関連する文献を収集するとともに、研究計画をさらに進展させるべく、ドイツ警察・秩序法を素材とし、警察と秩序行政庁の権限配分を規律する補充性原理の成立過程、意義、その機能について調査・検討を行った。具体的には、ドイツ各州における警察法の制定経緯並びに警察と秩序行政庁各々に認められている権限とその関係性を明らかにするとともに、警察と秩序行政庁の権限配分が実務においてどのように機能しているのかについて調査を行った。その結果、危険防御の任務は第一に秩序行政庁が担い、秩序行政庁が時宜を得てこの任務を行い得ない緊急の事態が生じた場合にのみ警察が活動するという役割分担(補充性原理)が存在すること、しかし実際上は秩序行政庁の組織(執行)体制の欠如により、警察の果たす役割が徐々に大きくなっていることが明らかになった。 2 これに続き、我が国の現行警察関連立法を悉皆的に調査し、一般行政機関との関係において警察が活動しうる範囲を実質的に規定している要素を帰納的に抽出する作業を行った。とりわけ災害時における自治体と警察との連携や児童虐待対応における行政機関(子供支援課)と警察との連携を素材にしながら、多機関連携が問題になった事件や実務慣行について調査を行った。その結果、我が国では〝警察任務一般条項〟とも言うべく、他の行政機関の所掌事務とされている案件においても、警察の責任の名の下で活動が認められる傾向があることが明らかになった。これは一般には警察権限の拡大という意味で否定的に評される現象ではあるが、他方で実務的には縦割り行政の打破という意味において肯定的に評価されてもいる。今後は、危険防御任務における警察の役割を肯定的に評価しつつも、その限界についてさらに検討する必要があることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 初年度並びに本年度において、研究に必要となる文献(とりわけ日独警察機関の組織・権限法に関連する文献)の収集はほぼ終えることができた。またさらに初年度において構築した海外(ドイツ)における人的ネットワークを活用し、ドイツの警察実務家へのヒアリング調査や警察法研究者へのインタビューを実施することもできた。 2 具体的には、ドイツ・フライブルク地区警察本部のD. Klose氏に警察と警察行政庁ないし特別秩序行政庁との協働の具体的実例について、またフライブルク県庁(行政管区庁)の警察本部長B. Rotzinger氏に現在進行中であるバーデン=ビュルテンベルク州の警察改革(執行警察部門の統廃合・任務遂行の効率性と柔軟性の追求・IT部門強化・改革の意義と効果等)についてヒアリング調査を実施した。またドイツ・フライブルク大学(D. Murswiek教授)での在外研究期間中には、警察法研究者でもあるR. Poscher教授やT. Wuertenberger名誉教授(ともにフライブルク大学)と面会し、研究課題について意見交換を行うほか、ドイツの国内治安法制に係る重要論文の翻訳や、同大学が主催する「欧州における市民安全法ネットワーク」研究プロジェクトに参加することもできた。いずれも、ドイツの警察制度を実務・理論両面から把握することに寄与するものであり、ドイツ滞在時の当初の目的をほぼ達成することが出来たと考えている。研究の最終年度は、これらの研究資料をさらに精緻に分析した上で我が国の警察法制度との異同を慎重に明らかにし、警察と行政機関の権限配分を貫く法原理を見出すことが可能か検討することにあり、研究は概ね順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
1 ドイツ警察・秩序法の知見を踏まえ、我が国において警察と行政機関の権限配分を貫く法原理の存在を明らかにすることが今後の課題である。現時点では、ドイツと同様の補充性原理が我が国の警察法秩序にも妥当するという仮説を立てているが、この仮説が正しいかどうか、行政組織法(東北大学)や刑事法(九州大学)の研究者との共同討議や各種研究会での報告によって検証することにしたい。またこれらの作業と並行して、ここ1、2年で警察法並びに安全政策での多機関連携に関する論文が多数公表されていることに鑑み、これらの文献の収集・調査を行い、できる限り論文に反映させることにしたい。 2 なお研究の過程で、公安委員会と警察庁並びに都道府県警察との関係について作用法的視点・組織法的視点両方から総合的に研究する必要性が明らかになった。公安委員会はドイツ警察法には存在しない制度であり、ドイツ法との比較研究においてはその位置づけをより明らかにする必要性を感じたからである。この点についても研究の進捗状況を見ながら出来る限り調査したいと考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、概ね当初の予定通りに予算執行を行うことができた。経費が残ったのは、次年度が本研究課題の最終年度であることを考慮に入れ効率的な使用を行った結果である。 この残りの分について、国内での研究会報告や共同討議のための旅費として、またドイツ・フライブルク大学での在外研究期間中に日本で公刊され、入手できないでいた警察法に関する論文・単行本の購入・複写や、これまで収集した膨大な資料を整理分類するためのファイル購入費用と、アルバイトへの謝金として使用する予定である。
|